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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第九章 煙草は秋桜の香り
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第三話  俺氏、煙草に無限の可能性を見る①

 俺はその日から更に煙草に嵌った。

 ヘビースモーカーとはどれぐらいの頻度で煙草を吸う人の事を言うのだろうか。

 しかし片時も煙草が側にないと不安になるのは危険な兆候であるのは間違いなかった。

 

「ちょっと煙草吸い過ぎなんじゃないの?」

 休憩中。裏で吸っているのを店長が見咎めた。店長は吸わない人ではあるが、喫煙者には寛容だ。

 彼、ではなく彼女が言いたいのは体に悪いのではないか、ということだった。

 

「……新しく吸い始めたコレが上手くて」

 そう煙をひらひらと泳がせて見せたのは、あの日、まだ世界が正常だった頃に買った煙草。

 『たばこ』とシンプルな文字に、極彩色のパッケージ。

 この世界のイケメン成穂さんに同じものを作って貰ったものだ。

 しかもちゃんと金は取られているのだ。

 

 うちの宇宙人は法律には厳しい。

 この煙草もどうやったのか分からないが、店頭に並べられ、普通に煙草屋で見かけるようになった。

 つまり正規の方法で製造、販売して、ちゃんと税金も回収しているということだろう。

 商売でも始めるつもりなのだろうか?

 

「ああ、それ巷で流行っている煙草だったのか。君も流行に聡いね」

「え?」

 流行っている?

「知らないのかい? 手巻き煙草だから知る人ぞ知るってくらいだけど、お客さんにも何人か同じものを吸っているって聞いたことがあるよ」

「……大丈夫なんですかね」

「まあ百害あって一利なしだけどね」

 そう店長はウインクして店に戻っていた。

 いや俺が言いたいのは製造者が宇宙人ということなんだけど。

 いやあ美人のウインクは攻撃力抜群だなあ……しかも男装の令嬢って感じで破壊力ましましだ。

 

「しかし俺には男性たるセンサーがない……」

 下半身に目を落とす。そこにはもう高性能だったはずの美人探知機の姿はない。

 

「はぁあああ~……もう一本吸っておくか」


 ポーチの中からフィルターを取り出して、シャグを摘まもうとして、

「あちゃ、もう切れたか……」

 どうやら吸い過ぎたようだ。店長の言葉ではないが、少し抑えないといけないな。

 

「買って帰るか」

 

 休憩時間を早めに切り上げ、俺は仕事に戻るのだった。

 

 *

 

「あ、おばさん」

「誰がおばさんだ。お姉さんと呼びなさい」


 煙草を買って帰る道すがら、また由紀夫君と愛犬チャッピーの散歩に出くわした。

 

「そうだ、見て下さいよ!」

「え、なになに?」

 唐突だな。一体このお姉さんに由紀夫君のナニを見せてくれるというのだね、ぐふふ。

「ちんちん!」

「ち!」

 あかん、あかんよ由紀夫君。そんな事をしたら俺ぐらいの女性はもう青少年育成条例なんてすっ飛ばして大人の階段を一段飛ばしどころかもう、凄いところまで駆け上がらせちゃうよ。

 ああ、でも心配しなくていい。俺は男の心を持った素敵なお姉さんだからね。あ、でも由紀夫君のちんちんは見てみたいかも……いやちょっとね、ちょっとだけね。

 

「わん」

「……ああ、そういうことか」

 チャッピーが何時もの可愛げのない声で吠えたかと思うと、立ち上がるように前足を上げたのだ。


「凄いでしょ、最近覚えたんだ!」

 由紀夫君が無邪気に喜んでいる。ああ、何だか心が浄化されていく。見ないで、俺を見ないで。

 

「でもおかしいよね、雌なのにちんちんって」

 すまない。由紀夫君を見ていたら何だかちょっと下ネタを言ってみたくなったんだ。すまないすまない。

 

「え、チャッピーは雄ですよ」

「あれ、そうだっけ?」


 おかしいな、この世界は男女が逆転している世界だったはず……もしかしてそれは人間限定の現象なのか?」

 

 それが本当なら宇宙人である成穂さんや、若葉さんまで男になっている理由が分らない。それとも宇宙人と人間だけ逆転しているのだろうか?

 

「う~ん……作為を感じる」

「どうしたんですかおば、お姉さん。急に考え込みだして」

「すまん、ちょっとチャッピー貸して貰えるか? 用事が済んだら家に連れてくから」

「……まあ近所だしいいですけど」

「ありがとうっ。いくぞチャッピー」

「わん」


 俺はチャッピーに繋がれた紐を受け取ると駆け出した。

 俺の帰るところ。安アパートへ。



 由紀夫は去っていく一人と一匹の後ろ姿を呆気にとられた様子で眺めていた。

「あ……言っちゃった……何なんだろう? それにおばさんってあんな男勝りな人だったかな? それにチャッピーあんなに懐いていたかなあ?」

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