第二話 俺氏、牛丼屋で贅沢を②
「くそう……納得いかないでやんすな」
とぼとぼ封筒の中身を確認しながら歩く俺の名は、俺。
宇宙船を持っているってところが他と違うところかな? 短所? ちんこ? よろしくねっ。
俺が今、文句はあるものの上機嫌なのは臨時収入があった事と、後ろをてくてくと追従して歩く存在のおかげだ。
「よ~し、今日は奮発して牛丼特盛おごっちゃうぞ」
「ありがとうございます」
簡潔!
後ろを付いてくる銀河系美少女は宇宙船の何かで名は成穂。俺もよくわかりません。
人間なのかロボットなのか構成物質がなんなのかガイガーカウンターに反応しないのか牛丼食べれるのかなんにもわかりません。
でもなんにも問題がないのだ。
「ぐっふっふ」
牛丼さえ食わせれば恩に着せられる。そうなれば話は簡単よ。
つまりはこうだ。
「いや~金欠なのにおごっちゃったー金欠なのになー……あれその万札が入っている封筒は? ああそうか、俺が紹介したバイトの臨時収入だよね、ね……だからさあ、わかるよね? マージンってやつ。ああいいのいいのおごった分はね、おごった分はね。だからさ、ね? ……もし払えないんならさ、その…デゥフフ体で……デゥフフ」
とまあこんな感じである。完璧な攻め手だ。
ちらりと後ろを見やる。
何も知らない無垢な瞳を帽子のつば越しにも感じるぜ。
あ、帽子は店を出てすぐに買いました。やっぱり怖いね、眼鏡と髪を染めただけじゃあ不味いね。
気付いたら後ろからぞろぞろ付いてくる人垣が出来ていたんだもの老若男女の。何処の芸能人だっていう話だ。しかもここは地方の町なのだ。下手したら東京のウン百分の一の人口なのだ。
地方では人混みなぞ、何かのイベントでもない限り見れないものなのである。
しかし最も青ざめたのはその事ではない。
誰も笑ってないのだ。笑顔も見せず、近寄りもせず、一定の距離を一言も発する事無く付いてくる集団。
慌てて帽子を買ったね。付いてきた連中は元凶が記憶操作で追い払ったさ。本当に心臓に悪いから止めて欲しい。
「なあお前」
「成穂です」
「成穂くんさんさあ……なんとかならない?」
「提案は詳細に報告してください」
「人を魅了っていうか、おかしくなるというか……そういうのだよ」
あるだろう謎生物なら、石ころ帽子的な物の一つや二つ。
「私自身が何もしていない以上、執着という行為は此処の原生生物として正常な反応です」
「いやだからさあ……ねえ」
「対処として行っている記憶領域の改竄を永続的に行うことで、主が障害と判断している諸事情は解決します」
「なあんだ、それでいいじゃないか」
問題解決で、俺も気を遣うことなく美少女とデート出来るわけだ。
あれ、なんだか意識しちゃう。ドキドキ。
「しかしその場合、主が良しとせぬ後遺症が残ります」
「嫌な予感しかしない」
「集の概念の喪失です」
なんだと、意味わからん。
「私に対する無関心を作為的に、永続して起こす行為はこの界面事象に大きな負荷を掛け、結果的に全てのモノから集の概念を喪失させます」
「やばい事は分かるが、はっきり言わないと分からんのです」
「全てが孤独になります」
「ははーんさてはボッチだな」
これは逆にいいんじゃあないか? ボッチに祝福をリア充に鉄槌を。
「反応が始まり、全てが独になった結果。この星の存在は全て散逸し、約0.02秒で消滅します」
「ボッチか?」
「太陽系と呼ばれる集団は約0.89秒で――」
「ボッチなのか」
「銀河系と呼ばれる集団は約16時間8分43秒666で――」
「意外と遅い?」
「副作用による反応だからです。それを主目的とするならば時間は必要としません。実行しますか?」
「駄目です」
簡潔!
まあSF(少し不思議)な話を聞いた後で、帽子で妥協するのが最善だという結果になりました。