第二話 俺氏、新しいクサにはまる②
「……なんかおかしい」
店の裏で煙草を吹かしていた俺はそう独り言ちた。
手に持った極彩色のパッケージを眺める。
始めは警戒していたものの、上手いのでつい吸ってしまっている煙草。
そういえば最近肩がこる。いや原因は分かっているのだ。不特定多数のご婦人が「っは~ぜいたくな悩みね~」と言ってしまうあれだ。
だが解らない。
今まで肩がこる、なんてこと無かったのになぜ今更、という疑問が湧き上がる。
「おや、いい匂いだね。その煙草どうしたの?」
後ろを見ると店長が裏口から顔を出していた。
「成穂さん――ではなく、店で買ったんですよ。たぶん新商品」
「ふーん……」
店長は嫌煙家ではないが非喫煙者だ。だから煙草に興味を持つのは珍しい。
「どうです一本、作りますよ」
俺が吸っているのは手巻煙草だ。つまりシャグを千切ってほぐし、紙で巻く必要がある。
この際、紙のノリ面を湿らせて貼り付けるのだが、普通は一々水を用意せず舌で舐めて用を足す。
だから気心の知れた人物にしか作ってあげられないから注意が必要だ。
「う~ん、魅力的な申し出だけど遠慮しておこう」
「そですか」
「パッケージがおどろおどろしいしね」
そういえばとパッケージに目を落とす。
若葉さんが用意したという、なんだか惹きつけられるようなこの派手なイラスト。これには何か魔性の力がある気がする。
店長は気味が悪い様子だったが、恐らく個人差があるのだろう。これからはあまり人には見せないでおこう。
*
「今日もお疲れ様、気を付けて帰ってくれ」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様です」
こうして安アパートという我が城に二人で帰宅する。
最近のハチャメチャぶりからすると、なんという事もない一日になりそうでホッとする。
「いや気を抜いてはいかん」
「どうしましたか?」
何食わぬ無表情顔でイケメン面を晒している同居人だが、突然とんでもないことをしでかすのだ。
これぞジェネレーションギャップならぬ、ディファレンススペースギャップ……異宇宙差なのだから。
「なんでもな――」
「あ、あの!」
ん?
裏口から店を出た俺達に声を掛けてきたのは、制服を着た少女だった。
「店には入る勇気はなくて……でも貴方を見た時から想いが止まらなくて……」
おいおいおい、どうやら俺にも春が来たようだな。この店は成人御用達。未成年の彼女には敷居が高いが、居ても立っても居られずこうして待ち伏せしたという訳だ。青春だなあ。
よし渋めのいい感じに攻めよう。
「この俺に何かようかい?」
睨まれました。
怖いよね。若い子の純粋な殺意って心に来るよね。
「あ、あの……これを読んでくださいっ‼」
少女が差し出したのは手紙だった。
それはラブレター。中を見なくても分かる可愛らしい便箋。
もちろん差し出されたのは俺ではなく成穂さんだった。
「す、好きでっ……手紙に想いをつづって……見てください……」
顔を真っ赤にした少女が俯きながら、それでも必死に愛を伝えようとする様は尊いものだった。
いやそんな事よりこれって百合じゃねえか? いや百合じゃないな。あれ?
「貴方の思いに応えることは出来ません。詳細をこの手紙にしたためました。ご一読ください」
「「なっ!」」
少女と声がハモってしまった。
正直、告白してきた少女は可愛い。成穂さんといい関係になれば、こう、百合も間近で見れて、なんかハーレムな感じでおこぼれに預かれるかもと妄想していたのだ。
あれ? 百合じゃないな? 何度間違うのだろう。
しかし当の少女は、もっと別なことを考えていたので。要は修羅場に発展した。
「どうしてっ‼ なんで断りの手紙なんか用意しているのっ! そんなに私の事が嫌い⁉」
「今作りました」
「そんな嘘で誤魔化されるわけないじゃないっ‼ そうなの、何枚も用意して断っているんでしょ! モテますもんね!」
いや多分本当に今書いたんだと思うぞその手紙。
「その女のどこがいいって言うの⁉ そんなおばさんより私の方が何倍も貴方を幸せにしてあげられるのに!」
おばさんだなんて失礼な奴だ。お姉さんと呼んで欲しい。
でもそうだな。俺が成穂さんの主なのだから仕方がないな。
「主は関係ありません」
「ないんだ」
「あ、あるじ……って。不潔、最低‼ いい趣味……じゃなくて悪趣味!」
少女は走り去ってしまった。
成穂さんの出した手紙も受け取らず、自分の性癖をちょっと暴露して。
自分の事ではなくても、人が振られるのを見るのは気持ちのいいものじゃあない。
「帰りましょう」
「……そうだな」
俺達は言葉少なに帰路についた。
*
「俺女なんだけど」
安アパートの風呂に入ろうとして気づきました。
胸があるし、あれが付いていない。俺女じゃん。
「今更何を言っているのですか」
「頭でも打ちましたか?」
変な生き物でも見るかのような美青年と美少年。お前ら男じゃん。
「おかしいじゃん」
「どうしましたか」
「豆腐で頭を打ったんですか」
今の世界は男女が逆転しているのだ。




