第四話 俺氏、時の流れに涙する②
「あれ?」
撃たれた。そう思った瞬間、俺は別の場所に居た。
それは薄暗い空間で、狭く、奇妙な機材で埋め尽くされた部屋だった。
「もう少しお待ちください、終わりました」
声のした方向へ顔を向けようとするがそれが出来ない。首を動かしているのに、それで風景が変わらないのだ。
それならばと必死に眼球を動かし、声の主を探す。
「な、成穂さん……」
「はい」
聞き間違いなく、そして目の前に居るのは成穂さんだった。
薄暗い部屋の中、謎の機械の放つ光に照らされた彼女は、何時もの通りの無表情で俺を見下ろしていた。
「見下ろす……?」
違和感が強くなる。
寝ているのだろう筈の体を起こそうとも視界は眼球の動く範囲しか変化しない。混乱しながら体を確認するために視線を落とすと、
「か、身体がないっ‼」
眼下には身体はなく、代わりにテーブルらしい平らな台が見えるだけである。
「腕ならあります」
そう成穂さんが取り出したものにまた驚愕。腕だ! 肘までしかない腕だ。それもうねうねと動いている!
「うひゃあ!」
堪らず俺はその場から逃げようとするが、頭しかない俺は動けない。
それに合わせて彼女が持つ腕もうねうね……あれ?
「それ俺の腕じゃない?」
「はい」
確かに感じる消えたはずの右腕に、成穂さんの手の温もりを感じるのだ。
「……どういうこと? ここ何処?」
「順を追って説明します。その前に――」
そう言葉を区切る成穂さんの隣には、何時の間にか一人の少女の姿があった。
*
「ごめんなさい」
若葉さんはそう頭を下げる。
生首と腕だけになった俺は、首を傾げることも出来ず、指でクエスチョンマークを宙に描くことでその心情を再現しようとして断念した。
「どゆこと?」
8ミリフィルム
1970年代に大流行した撮影用フィルム。
家庭用を目的として販売され、シングル8と呼ばれる製品が世界のスタンダードとなった。現在は販売が終了している。*Wiki調べ
「そうゆこと?」
そういう事らしい。
「いやいやいや、なんでカメラ? レフ板?」
レフ板
撮影の際、被写体に太陽光、人工照明の光を反射させるために使われる板。
間接光を利用するために使用し、白い布、発泡スチロールなどを用いる。*Wiki調べ
そういう事らしい。
「日本では授業参観などの行事ごとは記録するものだと」
「まあそうだね」
確かに他の親御さん達も、スマホやデジカメで授業風景を撮影していた。
その後はそれどころじゃなかったけどね。
「俺の体……いやあのテロリストは!」
そうだ、こんな所で悠長に生首になっているわけにはいかないのだ。
「問題ありません。主の身体もしばらくすれば――」
言い終わらぬうちに俺に変化が起きた。
「おおう⁉」
ボトンボトン。机の上に様々な部位の身体の一部が現れる。一様に丸くくり抜かれたかのような形状をしていてバラバラで。まあ普通にスプラッタである。
「ぎええええええ」
「ほおっておけば繋がりますよ」
若葉さんの呆れた声が場違いなくらい怖い。
「……テロリスト役が主の体を送ってきてくれます。そろそろ全部そろうでしょう」
「げえええ」
これは誰にも見せられない光景だ。
バラバラの体はまるで、一時期流行った水着女の子を円を使ったのモザイクで水着部分を隠し、全裸風に見せるコラの如く、そんな感じでバラバラなのだ。
それがスポンスポンと擬音が聞こえてきそうな勢いで合体していく。俺は磁石でくっつく巨大ロボットか、ってなもんだ。
「どうやら恐慌状態に陥ったようです。ご主人が消えるまで撃ちまくったのでしょう。簡単に全部揃いましたね」
どうやらあちらであのテロリスト共に撃たれると、その箇所がこちらに転移されるらしい。
最後に成穂さんが持っていた俺の腕をあるべき場所に近づけるとニュポンとくっついた。
これで俺は、ようやく完全な体を取り戻すことが出来たのだった。
大きく溜息を吐く。そして体を起こして部屋を見回す。
「で、ここは何処なんだ?」
「編集室です」
うーん……簡潔過ぎて実に不安だ。
「注釈を入れるとご主人の体が飛び散らないように創り出した編集室兼回収室です」
ますますわけわからん。
「うーんとね……まずあの玩具みたいな銃はなんなの?」
「ダゲストス人が使う平均的な武器です」
ダゲストスかー聞き取れたけどダゲストスねー。何処の国の人?
「いや若葉さん、なんでそんな国の人が小学校にテロリストとして乗り組んでくるのよ?」
「それは――」
成穂さんが何かを言いかけて、しかし若葉さんがそれを遮るように、
「そう私が仕組んだからです。あとダゲストスは国ではなく、彼らの種族の支配が及ぶ超銀河団の名称です」
「……ダゲストス星人ってこと?」
「まあそれでいいです」
急に規模がデカくなっていないか?
「……で、仕組まれたとして、そのダゲストス星人さんが何故、天の川銀河の太陽系の地球の日本の地方の一小学校に?」
「……それは……彼らはある宗派の信徒で……その中でも武闘派な集団でですね……」
らしくもなく歯切れが悪い。これはまるで悪戯を見咎められた子供のようだ。
「彼らは宗教の勧誘に来たのです」
「姉さん!」
「成穂さん?」
「この星の流儀も理解せぬまま、目に付いた知的生命体の多い建造物に勧誘しに訪れたのでしょう」
勧誘に武器を持って? 初めて会った時の成穂さんのように、地球初心者みたいな失敗ということだろうか。
う~ん何とも無茶苦茶な話だけれども、まあ置いておこう。
「それよりも学校だ!」
危険な勧誘に今なお子供達が、京香先生が晒されているのだ。
「直ぐにでも戻らないと!」
「焦る必要はありません」
「そうですよご主人はあわてんぼうですね」
「そんなこと言っている場合じゃあないだろう、あの危険な武器で一人ずつ殺すとあいつは言っていたんだ!」
あの様子だと次は間違いなく京香先生だ。本当に急いで戻らないと。
「問題ありません」
「いいから早く俺を教室に返してくれ!」
悠長にはしていられないのだ。
「ではそこの扉から部屋を出て下さい。元の世界へと繋がっています」
話を終えぬうちに後ろにあった扉のノブを握りしめる。
怖くないわけがない。しかしこんな身近な場所で、この街で、惨劇なんて起きていいなんて、そんな訳がない。
「待ってろ、みんな!」
俺は勢いよく薄暗い部屋から飛び出した。




