第二話 俺氏、牛丼屋で贅沢を①
「はい今日もおつかれ~」
「お疲れ様でした……」
「お疲れ様でした」
俺の心配は杞憂であった。
客が一人、入店した時は肝が冷えた。あんな変装で大丈夫なのかと。
だが男は成穂を五度見した後、何事もなかったかのように退店した。自分の足で帰れたのだから凄い進歩だ。
しばらくするとその男が戻ってきた。友人らしき人物を引き連れて。そして店内の一画に陣取ったのだ。
それからじーっと陳列棚の陰からレジにいる成穂を眺めだした。
そこからはまるでレミングスのように同じ行動をとる様が続いた。
退店入店を繰り返し、どこからともなく同志を引き連れてくる。それがしばし繰り返される。
しかしそこからが加速度的だった。
何処で聞きつけたのか、同じような人種の男達がわらわらと店に殺到し始めたのだ。スマホを弄っていた人物が情報を拡散したらしい。
数を力に付けた男達は打って出た。それはまさに訓練された軍隊のように統率の取れた行動だった。
男達はレジを打つ成穂に少しでも近づこうと商品を買う。もちろん目の前のオカマは完全に無視しだ。
見栄を張るためか、積みあがるほどに商品を買い求める男達も出始めた。
いや違う。あれは少しでも長い間レジに並んでいられるように考え抜かれた戦術なのだ。あれは参考になった。
まさに純愛がなせる技である。俺もあれは何時か真似しよう。
しかし知ってか知らずか当の本人は、超絶技巧でもってレジ打ちをこなし、あっという間に客をさばいていった。
というわけだ。
「成穂ちゃん、今日は助かったわ~ん」
「いえそれ程でも」
「いや~ん謙虚で可愛いなんて反則ぅ~~」
「オカマが移るから近寄らないでください」
「なぁ~に~、今日の君は辛辣ねぇ?」
おっと思っていたことが口に出てしまった、失敗失敗。
「なんか雰囲気変わった? 成穂ちゃんとなんかあったんでしょ~」
「いいえ何もありませんよ。久しぶりに会ったから舞い上がっちゃったのかもしれませんね」
くそう、オカマの洞察力は侮れないと聞いていたが本当なんだな。
「まあいいわ。成穂ちゃん、はい今日のお給金よ。是非是非また手伝ってね~お願いよ~ん」
「ありがとうございます」
……おいおいおいおい、なんだよその封筒のぶ厚さはよう。千円か? 千円札で嵩増ししてるんだよな、そうだよね?
「物凄い売り上げだったから、色を付けまくっちゃった! こんなに売れたのは開店以来初めてだったわ~」
幸せそうに腰をくねくねさせる店長を視界から外して店内を眺める。陳列棚がすっからかんだった。
あれ、お気に入りのDVDが売れ残ってる。
なんでだ、いいだろあれ⁉ フェチズムを刺激して最高だろうが。
まあSNS文化は宇宙人を多少なりとも困らせるほど凄いということが分かったのは収穫だろう。人類なめるな宇宙人というやつだ。
しかしネットにアップされた情報や画像は、閉店と同時に成穂に消されてしまったようだ。もちろん客と画像情報を見た者達の記憶と共にである。
距離も人数も情報量も、一切関係がない記憶操作が出来るってかなり怖いね。
きっと今頃、目の前の大量に買い込んだ大人のおもちゃを前に、頭を抱えているのだろう。
いやサプライズ感があってオラわくわくすっかも。
「君にも特別ボーナスね、お・つ
・か・れ」
「あ、ありがとうございます、うす頂きます」
流石俺の尊敬する店長様である。こういった気配りはオカマの特権だよね!
「……確実に成穂より少ないんですけど」
「貴方のは全部千円札よ」
「え」
「じゃあしばらく臨時休業ね~商品ほとんどなくなっちゃったから~おつかっれ~~」
店長は上機嫌であった。