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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第八章 宇宙船、学校へ行く
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第二話  俺氏、交換手の人になる②

『何をしているんですかご主人』

 背筋に氷を入れられたかのような気分になる素敵な声だなあ。

(授業参観の予行練習ですどうぞ)

『そうなんだ、おやつが貰えるんだ』

(こらチャッピー、余計なことは喋るんじゃない!)


「すみません。熟女ぐちょ濡れ銭湯物語の新作はありませんか?」

「ああ、SOMのやつですね。あれはタイトルが変更になったんです。ええと『熟女混浴大作戦』ってやつですね」



『……なんですか、セクハラでしょうか?』

(ああ違う違う……ってなんだこれっ⁉ ちょっと待って――)

「ああそうなんですかあ……よかった、打ち切りかと思った」

「良かったですね」

(このシリーズ、銭湯から温泉まで幅広くプレイするようになったんだよねえ……流石売れ筋の意欲作だ)

『姉さんに訴えますね』

『お風呂なのか! 俺もお風呂好きだぞ』


(なんだこれぇ……心の声どころか喋っていることまで筒抜けなんですけどどうしよう)

「いやあ助かりました」

「毎度ありです~」

「あの……」

(ってうわあ……撫子さんじゃん。マスクとサングラスでばれないと思っているだろうか)

『撫子さんですか? あの古代兵器を使用したという人ですよね。今どこに居るんですか?』

『いい匂いがしておっぱいデカいぞ!』


「いいからちょっと黙っててくれよ」

「え」

 しまった。口に出してしまった。

『……なんですかご主人のくせに口答えですか、いいでしょう私にも考えがあり――』

「……貴方、初対面の客にそんな態度はないんじゃないでしょうか?」

「ああ、違うんです独り言なんです、自分不器用でして時々変なこと口走ってしまってお客さんのことじゃあないんです!」

「それなら……いいですけれど……病院行った方がよろしいのではないですか?」

 ああ知り合いにこういう心配されるのって結構つらいなあ……。

 

『無視しましたね、分かりました実行します』

「キャアアアアアアアアア‼」

「ひゃ!」

「なになにどうしたのよっ!」


 ハア……ッハア……ハア……か、身体におぞましい衝撃が走ったぞ……な、なんなんだ⁉

 

『身体検査と銘打った採掘行為の時に、ご主人の体に少し細工をしていたんです。どうですか、これで私に服従する気になりましたか?』

 な、あの俺の金玉を抜いた時のことか! っていうかやっぱりあれは身体検査じゃあなかったのか、くそう騙された!

 

「あの……本当に病院に行った方が……」

「そ、そうよ……今の尋常じゃないくらい、口から人の大切なものが出ていくかのような奇声だったわよ……」

 やめて、本当にやめて。俺は奇病に罹っているんじゃないんだ。変態だけれど面会謝絶されるような存在ではないんだ。

『いい気味です、のぞき見しようとしていた罰です』

『そうですよいけないですよ』

 なんだ、チャッピーが大人しくなっている⁉ くそっ向こうで一体っチャッピーは無事なのか?

 

『もう姉さんもこんな馬鹿なことに付き合う必要なんてありませんよ』

『……そうでしょうか』

『そうですよ』

 待って、成穂さんまで俺の頭を介して会話しないで。狂っちゃう、狂っちゃうからあ!

『じゃあお仕置に駄目押しで』

「キャアアアアアアアアア」

 

 こうして俺の『覗き体験アンビリバボー作戦』は失敗に終わった。

 ああ……ブルマが見れると思ったのに……。



 ***

 

 

「本当に大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫っていうか俺はいつも通りで普通ですよ」

「まあいつも通りと言えばいつも通りですが……」

 なにその何時も変みたいな言い方は。そんなことはないぞ、そうだよね。

 

 

 今は俺は、店長に大事を取れと言われてスタッフルームで休んでいる。

 撫子さんも何だかんだ言いながら付いて来てくれている。

 やっぱり優しいなあ撫子さんは、金持ちの余裕なのだろうか。マスクとサングラスは変装を諦めたのか、何時の間にか外している。

 

「少しは心配したんですから感謝してください」

「ありがとうございます……でもどうして心配してくれたんですか?」

 正直に言って俺と撫子さんの関係は知り合い程度でしかない。

 以前の巻貝モドキ兵器の一件は成穂さんが記憶をごにょごにょして彼女には無かったことにされている。

 

「それは……いちおう妹の親友のご近所さんで、ご自宅にもお邪魔していますし……」

 

 記憶は無くなったとしても残滓のようなものは残っているのかもしれない。そう思った。

 それに、そうでなければうちの常連として、今ここに居ることは無かった筈だ。

 ちなみにここ、俺が働いているのはアダルトショップだ。撫子さんは顔を隠して頻繁に大人のおもちゃを買ってくださる、懐にも下半身にも優しい人物なのだ。ああなるほど優しいわ。撫子さんは優しいわ。あ、いかん立ってきた。

 

「聞いているんですか?」

「あ、はい聞いています」

 怖いです。なんか叱られてる雰囲気です。

 

「それで私を見て悲鳴を上げた理由はなんなのですか?」

 ああ、そういう風に見られていたのか。そりゃ心配にもなる。

「いやあれは――」

 何といえばいいのか。正直にロリ宇宙人をストーキングしていましたと言うのか? 否、それは地獄への片道切符だ。ならば何気ない会話を交えつついこう。

「最近また親戚の子を預かることになりましてね、若葉っていう子なんですけど成穂さんの妹でね」

「成穂ちゃんだけではなく、妹さんまで預かっているなんて……本当に大丈夫なんですよね? その法律とかその、事件性というか」

 眉をひそめて訝しげに俺を見つめている。

 よせよ、あまり俺を見すぎると惚れちゃうぞ。

「それでまあ学校に通うことになってチャッピーに様子を見て貰おうかと。チャッピーはご存知ですよね」

「……ええまあ相沢さんのペットですよね……?」

「まあそれでチャッピーをストーキングしましてね。途中で電柱にマーキングしようとし始めて興奮しちゃて……あいや、慌てて止めようとして変な声が出てしまったんですよ。それで思い出し悲鳴というやつです、ええ」

 ふふふふふ、嘘は全てが嘘だと直ぐにばれてしまう。しかし真実を混ぜれば真偽の判断が難しくなるのだ。

「ああそうなんですか」

 あれ? 反応が淡泊⁉ 急に興味を失ったようだ。これは意外な展開だ。どうしてだろう?

 

 *

 

 それから撫子さんは一切、俺の言葉には反応しなくなった。店長とは和やかに会話し、おすすめおもちゃを聞いている。

 随分自分の趣味にオープンになったじゃないか。

 良い傾向だ。と、俺は何故か光彩の無くなった撫子さんの目に、心の声で声援を送るのだった。

 

『獣姦趣味だと思われているんですよ』

「え、なんで?」

 急に若葉さんの声が聞こえたと思ったら頓珍漢なことを言われた。

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