第二話 俺氏、新造艇で掘られる③
「いやあ危なかったな」
宇宙服を脱いだことで、ようやく人心地つくことが出来た。
「しかし金玉は惜しかったなあ……」
俺から産まれた金玉。ずっと一緒だと思っていたのに。愛着が湧いていたのに。
「仕方がないか」
命あっての物種なのだ。
「主、その宇宙服は廃棄してください」
と着替えるのを眺めていた成穂さんがそんなことを言い出した。
俺が着たから臭いから? 不潔だから? そうだったら泣いちゃうよ俺。
「いえ、大きく破れていますので。修理より還元してしまうべきです」
「え」
脱ぎ捨てた宇宙服を確認すると、お尻の部分が盛大に裂けている。気づかなかった。
あれ、何時から裂けていたんだ? しかし呼吸も問題なかったし、寒くも熱くもなかった。どうやら回収された時に破れたのだろう。危なかった。もう少しで宇宙でミイラになるところだった。
「ふう~宇宙はこりごりだよ」
艦長席で溜息。成穂さんの淹れてくれたコーヒーが空きっ腹にしみるぜ。
しかしなんだか二人の表情が硬い気がするな。やはりあの金のスライムの襲撃は女の子には辛かったか。船の漢として後で慰めてやらないとな。
「このまま帰るということでいいのですか?」
「うん? ああそのつもりだ若葉少佐」
「何ですそれ」
ええい、私は艦長なのだ。口は慎みたまえ。
「本当にいいんですか?」
「成穂中佐までなんだというのだね?」
少しは金も回収できただろうし、ここにとどまる理由はない。それにあの金のスライムがいつ動き出すか分からないのだ。
「承諾されたみたいですよ」
「承諾?」
「あれです」
言われたモニターを確認すると、なんと金のスライムがすぐそこまで近づいているではないか!
「くそ、思ったより動き出すのが早かったな、だがここは若葉さん、もとい若葉少佐の船の中。主砲発射準備!」
これぞ宇宙世紀よ!
「……最低」
「主、私もそれはどうかと」
あれ? 何? 君達金のスライムの味方なの? 孤立無援?
「ちょっと待て。俺はあの金のスライムに襲われたんだぞ。攻撃して何が悪いんだよ」
二人は顔を見合わせる。止めてよね、二人が想定外って顔されるとろくなことが起こらない気がするから。
「告白したではないですか」
成穂さんがそう言った。
告白? 俺が成穂さんに? 確かにした。でも無しのつぶてだったのに今? 俺のアクションにときめいたのだろうか。
「そうではなくあの金の鉱物生命体にです」
「……金スラに俺が告白した?」
「そうです」
「やっぱり自覚がなかったんですね」
……おいおいおいおい。ちょまてよ。寝耳に水とはこのことだ!
「何時したんだよ!」
「主が、鉱物生命体に金玉を投げつけた時です」
成穂さんも金玉言わない。だがまさか……。
「金を投げつけるとがあの生き物にとってのプロポーズだってか⁉」
「正確には自分の体の一部分を、同じ構成の鉱物生命体に与えると求愛になります」
「おうえええええ」
吐きそう。
そうだ。あの金玉はよく分からない方法により、若葉さんが俺から取り出した俺だけの金玉。つまり俺の一部。
それを偶然というか必然というのか。同じ金で出来た金スラに攻撃のつもりで投げた。
まさにプロポーズの条件と合致するではないか。
「……ちなみにその告白が上手くいくとどうなる?」
「二つが一つになります」
「絡み合って融合していく様は、結構神秘的ですよ」
うおろろろろろろ。
駄目だ。金に潰される未来しか見えない。
「……ほら、向こうも今か今かと待っています」
「主、それでも私達の主ですから」
あれ何、君達俺が金属の花婿になる前提で話進めてる?
「全速で地球に帰るぞ」
「……どうして」
「……それはいくらなんでも非道では?」
「じゃかしゃあ‼ 俺はプロポーズだなんて知らなかったんだよ逃げるぞ!」
「……夕飯作ります」
「まあ仕方ありませんね」
こうして俺達の金策パート2は成功に終わった。
*
「やっぱり付いて来ていますね」
「鉱物生命体は情が深いと言われています」
「……地球まで来るのにどれ位掛かりますかねえ……?」
「地球時間でおよそ50年ですね」
う~ん寿命で死ぬか、金属とのセックスで死ぬか、微妙なところだな。
***
俺氏、エピローグしてみる
大冒険から帰った後、俺は早速金塊の加工を始めた。
道具は成穂さんと若葉さんが用意してくれた。
あの時使った光るナイフをバーナーとして耐熱性の容器で溶かすのだ。
それを適当な容器に流し込んで冷ます。冷凍庫で氷のブロックを作るように、小さな金の塊が幾つも出来上がる。
「うひひひひ……これで億万長者だ、不労所得者だ。仕事辞めよっかなーでも店長にはお世話になってるからなー。何個か渡してもいいな」
換金したら何に使おうか。この安アパートともおさらばして、億ションでも買おうか。でもそうすると題名変えなきゃだしなーどうすっかなー。
捕らぬ狸の皮算用だとは分かっているが妄想が止まらない。
お祭りも始まる前が一番楽しいというし、こういうのが一番幸せなのだ。その方俺らしく安上がりでいいじゃあないか。
「出来た!」
ちゃぶ台に並ぶは光り輝く純金の塊達。インゴットから、四角いもの、板状のものまで複数作った。
これだけ使ってもまだまだ若葉さんの中に在庫があるというのだから笑いが止まらない。
「気持ちが悪い」
おおっと若葉さんの「気持ち悪い」頂きましたー。……いや「気持ちが悪い」だったなー……いやー、辛いです。
「じゃあ換金ショップ行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
「夕飯は――」
「あとでー」
*
「上手くいかなかったのですか?」
「……塊だから破壊検査が必要になるだとか購入証明書がないと税金で半分取られるとか本人証明が二点必要だとか造幣局で刻印してもらえるからだとか――」
「それで」
「逃げてきた」
「……」
「ダサいです」
あ、辛れえわ。
「もっとポンと万札貰えると思ってたんだよーー!」
「「……」」
「胡散臭げな目で見られたんだよーうっ!」
「「……」」
「それでてんぱっちゃって……慌てて出てきちゃって……ああもうあの店いけない……いやそれどころか不審人物としてブラックリストに載っちゃうんだ……出禁なんだ~~」
「なにもやましいところはないのです――」
「何処で手に入れたか聞かれたら宇宙で拾いましたって言うのかよーー」
基地外判定頂きますわー。
「……」
「姉さん放って置きましょう」
「もういい。チャッピー像にでも加工しておいて」
「はい」
「素直!」
「あ、私もやりたいです」
「金だけでは硬度が不安なのでコーティングしておきましょう」
「妙に気合入れるな~」
成穂さんが手を振ると、ちゃぶ台の金塊が消え、代わりにニュッと金色のチャッピーが現れる。お座りポーズのナイスガイだ。
「すんごい精巧……」
そうして純金製のチャッピー像が出来上がった。大小、ポージングが様々な五十二体だ。
安アパートの底が抜けるわい。
*
後日、由紀ちゃん家族の相沢家に三十センチの像を一体プレゼントした。もちろん金メッキと偽ってである。
成穂さん渾身のチャーピー像は大いに喜ばれた。
「どうしたんですかこんな高そうな……それにチャッピーにそっくりで」
ママさんは困惑している。そりゃそうだ、急に持ってきたんだし。
「本当にいいのかい? うぅ重いなこれ……」
パパさんも驚きの重量である。
俺も運んだわけだが、いやあ重かった。さすが金である。
そしてすかさず用意してきた言い訳を披露する。
「いやあ知り合いにこういった工作が得意な奴が居ましてね。上手く出来たって言ってくれたんですよ。でモデルのチャッピーにもお裾分けってわけです」
「へえ……おじさんって謎の交友関係もってそうだもんね。良かったねチャッピー!」
「わん」
由紀ちゃんの中の俺の人物像が気になったが取り敢えず目標は達成した。
残り後五十一体。押入れの中で黄金のチャッピー達が光り輝いている。床が抜けるまでになんとか出来るだろうか。




