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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第七章 宇宙船の身体検査
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第二話  俺氏、新造艇で掘られる②

 と、意気込んだものの。

「あーしんどかった」

 それが小惑星に着いた時の素直な感想だった。

 何故かというと……。

 

 

「……見た目より遠い」

 宇宙船から見た小惑星群は近くに見えたのに。こうして宙に出て移動するとなかなか着かない。

「最も近い小惑星まで後1864kmです」

 遠い。数値にされるとさらに遠い。

 先程からずっと、宇宙服の推進装置のアクセルを押しっぱなしにしている。しかし後ろから若葉さんが付いて来ているせいもあって、全然進んでいる感じがしない。

 もう少し近づいてもらってから降りればよかった。

 

「……風景が変わらない」

 どれだけ進んでも何も変わらない。

 スペクタクルでダイナミックな宇宙も、人間という小さな存在からすれば不動もいいところなのだ。

 目標の止まった様に動かない小惑星も、照らしている恒星も、若葉さんも、成穂さんも、俺も、恐らく凄い速度で宇宙を漂っている筈なのだ。しかし相対速度はほぼ零なので人間の目には止まっているのと変わらない。

 

「……ここまで進んで逆噴射って」

 目的の半分の距離まで行ったら今度は反対の方向に向かって推進装置を動かさなければいけないらしい。

「そうしなければ、目標を通り過ぎてしまうか、激突します」

 そう成穂さんに説明されたのだ。

 考えれば確かにそうだ。

 宇宙には空気がない。それは誰でも知っている。しかし空気がある事の恩恵を理解している者は少ない。

 つまり空気抵抗がないから、放って置いても減速しないのだ。

 止まるには動いた分と同じエネルギーと時間を消費してブレーキを掛けねばいけないのである。

 だから目標の半分の距離に到達すると後ろ向きになってまたアクセル全開と言うわけだ。

「せっかく近づくために頑張ったのに、今度はブレーキとは……」

 徒労感が半端ない。

「人間が使う道具はご主人の妄想を見本にしているので仕方がないです」

 と若葉さん。なるほど、俺の発想が貧困だからこんな苦労をしなければならないわけですか。

 今度はもっと成穂さん由来の科学力でお願いします。

 


 とまあそんなこんなで非常に疲れたというわけだ。

 

「しかし……でかいな」

 目の前には純金の巨岩。

 コントラストの激しい宇宙空間にあってもなお、その輝きは美しく、影さえも浮かび上がらせる。

 これが幾万も連なっているのだ。まさに宇宙の広大さを感じさせる。

 

「……見とれていても仕方ないな」

 俺は用意してもらった工具を腰から外して構える。成穂さんに使い方も聞いて準備万端だ。

 

「よし」

 レバーを握りこむと光る刃が先端から伸び出る。これでカットして回収する寸法である。

 手に入れたら売らずに取っておく予定だ。正にロマン。これぞ漢の趣味だ。

 

 目の前の金の壁に工具を当てようとすると、異変が起こった。

「なになになになになに‼」

 金が液体の様に波打ったのだ。

「なんだこれ、震えてるのかっ!」

 小さなものだったのだろう。だが小さな存在である俺はその波打つ壁に押されて吹き飛ぶ。

 

「うわあっ!」

「主は運がありませんね」

 成穂さんの暢気な声を聞きながら飛ばされる。しかし金の巨岩から離れたことで異常の全容が明らかになった。

「金の塊が……うねうねって動いとる!」

 採掘しようとしていた金の巨岩が、まるでアメーバかスライムの様にうねうねと動き出したのだ。

 

「あー生きたやつですね」

 若葉さんも暢気なことを言っている。もう止めて! 変な事起きないで!

 

「た、助けっ!」

「たまに混じっているんです。鉱物生命体はしぶといので、諦めて別のにしましょう。えーと次の小惑星は65829kmですね」

「主、行きましょう」

 何故君達はそんなに落ち着いているのでしょう?

 

 俺はなんとか推進装置で体勢を立て直す。

 しかし目の前にはうねうねと金のスライムが迫ってきている。

「あぶねえ!」

 前回まで握りしめて軌道を変え、すんでのところでかわす。

 あの生き物の質量が金と変わらないとしたら、一体何百トンあるのか分からない。触れただけで弾け飛びかねないのだ。

 

「なにじゃれているのですか?」

「主、早く行きましょう。夕飯に間に合わなくなります」

 二人とも本当になんでそんな冷静なのでしょうか!

 

 金のスライムが再び軌道を変えてこちらに向かってくる。一体どうやって動いているのか分からないが、このままでは宇宙に赤い花火を咲かせてしまう。もちろん玉は俺だ。

 

 宇宙人二人はまったくあてにならない。

 どうする。

 その時俺に天才的閃きが訪れた。

 腰のポーチをまさぐる。あった。

 

「これでも喰らえ!」

 叫ぶと同時に向かってくる金の塊にそれを投げつけた。

 

 真っすぐ向かってきた金のスライムはそれを避けることが出来ずに命中した。そして動きを止める。

「よしっ見たか俺の金玉!」

 

 そう投げつけたのは俺から採取された俺の金玉だ。

 相手は鉱物生命体と言われているから効果はあると思っていた。

 つまり俺の金玉はあいつにとって異物だ。だが同じ金なのである。

 つまり拒否反応を起こしたとしても分離しづらいはず。

 

 俺の考えは当たり、金のスライムはその動きを止めたのだ。

 

「ふう……なんとかなったな」

「何をしているのですか?」

「主、早く」

「君達見てたよね? え、そんな反応なの? ねえ、心配して?」

 

 っとこんな所で言い合っている場合ではない。いつまで金のスライムが動かないでいるか分からないのだ。

 

「金の採掘は諦めよう。若葉さん回収頼む」

「……了解しました」

「夕飯には間に合いますね」

 そうしてトラクタービーム的な何かで俺達はあっという間に船内へと回収されるのだった。

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