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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第七章 宇宙船の身体検査
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第三話  俺氏、宇宙で告白する①

「ただいま太陽系より143光年くらい先にある小惑星群に向かっています。

「うむ。若葉君は分かりやすい言葉を使ってくれていいね」

 俺は艦橋の中央にある艦長が座わるっぽい椅子に腰掛けて、気分を満喫している。

「着きました」

「早えよ」

 秒じゃん秒。艦長ごっこする暇もなかったわ!

 

「なんですその『君』って。気持ち悪いから止めて下さい」

 ああキツイねえ……若い子に「気持ち悪い」って言われるのはマゾでも辛いねえ……。

 

 若葉さんは成穂さんより感情豊かな分、言いたいことははっきり言うらしい。

 まさか、成穂さんもキモイと思っていて言わないだけなんじゃ……駄目だ、考えちゃ駄目だ。

 

「主、あれです」

 成穂さんが俺の推理を塞ぐように言葉を掛ける。

 信じていいんだね、成穂さん。


「いいからご主人、あれが目的の物ですから」

 若葉さんの俺の扱いがどんどん悪くなっている気がする。ツンデレなんだろう。

「いいから見ろよ」

「はい」


 二人から言われた方向を見ると、そこは窓の様になったモニターで、そこには漆黒の宇宙が広がっている。

「なにも見えないじゃあ――」

 そこまで言葉が出たが、その後は呼吸をするのも忘れてしまう。

 

 漆黒の宇宙に光が差した。それはこの宇宙船に隔たれていたのか、それとも惑星に隠れていた恒星が顔を出したのか。分からないが兎も角、宇宙に突然光が溢れた。

 そこに広がるのは黄金色に輝く糸筋の星々だった。わずかに弧を描く様に、遠くへ続くその輝きは、黄金を敷き詰めた道のように見えた。

 

「すげえ」

「ほぼ純金で構成された小惑星群です。以前は惑星規模の金塊だったのですが砕けてしまったようですね」

 成穂さんが事も無げに説明するが、純金の惑星って恐ろしいぞ。宇宙って恐ろ凄いぞ!

 

「さあ回収してしまいましょう。私には全てを積むだけの容量はありますが、それをすると今の地球の貨幣全てを合わせても買えない額になりますからね。まあその前に金の価値が土塊以下になりますが」

 若葉さんも恐ろしいことを言いながら、コンソールを操作している。

「若葉さん、この船そのものなのに操作する必要あるの?」

 と聞くと、

「ご主人の趣味でしょう」

 と言われた。

 ああ、俺のSF感に合わせてくれているのか。何だかんだで優しいな若葉さんは。やはりツンデレか。

 

 *

 

 俺を無視して作業は進む。

 船内でみょんみょんと変な音が鳴ると、モニターから見える金の天の川に目に見える光線が当たる。

 すると照射された部分の小惑星が丸く消えた。

 いわゆるトラクタービームを再現しているのだろう。

 

「無駄な手間ですが、大した量は採る必要がないので丁度いいですね」

 そう作業を進めるのを傍目で見ていた俺に、ある欲求が芽生えた。

 

「俺も採りたい」

「……操作変わりますか? ご主人でも使えるように設定して――」

「いいや、宇宙に出て採りたい」

「意味が解りませんしありません」

 あるね、ありまくりだね。

 宇宙遊泳出来るチャンスが目の前に転がっていて、それに飛びつかないのは漢じゃあないぜ。

 

「……分りません。姉さんは分かるのですか?」

「……」

 おい成穂さん。そこでゆっくり首を振らないで下さい。泣いてしまいます。

 

「ですが望みを叶えるのが仕えるものの義務です」

 おお、何か成穂さんがお姉さんしている。

「姉さん……了解しました」

 そういう事で俺は宇宙に飛び出した。

 

 *

 

 まあ宇宙服を着てだけどね。

 

 始めは突然、艦橋室の側面の重々しそうな扉が勝手に開き始めて「それは何ですか?」と聞いたら「非常用ハッチです」と若葉さんが応えたのだ。

 まあ焦ったね。いくら宇宙に出たいと言ったとしてもそれはないよね。

 

 その後、直ぐに慌てて止めさせて、案内された部屋で宇宙服を着て、ようやく初めての宇宙遊泳に繰り出そうって所である。

 

「それではお楽しみください」

 そう送り出した若葉さんの顔には「何いい歳して、男って子供みたい」って書かれているんじゃないかってくらい冷めてたね。辛いね。

 

 でもいいんだ。目の前に広がる光景を目にすれば、あらゆる悩みが無くなってくのだから。

 

 無重力を感じるその世界は、全ての束縛から解き放たれた自由があった。

 眼下には何処までも続く黄金の帯。よく見るとその向こうに赤く輝く恒星が小さく見えた。どうやらあれが、この金の小惑星群を照らしているようだ。

 

 背後を見ると若葉の、つまり乗ってきた宇宙船の全体が見えた。

「奇麗な船だな」

 素直にそう言えるほど、若葉は先進的で先鋭的な、まるで流体がそのまま形を変えて矢じりの様になろうとした。そんな印象を抱かせる形をしていた。

 主体は白で所々メタリックな輝きを放っている。

「なるほど、俺の趣味のど真ん中だな」

 それぐらい、俺は若葉を気に入ったのだ。

「あまりじろじろ見ないでください」

「うおぉ!」

 耳元で聞こえる若葉さんの声に驚き見回すも、周囲には誰も居ない。

「ああ、ヘルメットの無線か」

 あまりにクリアでびっくりした。

「照れているのですよ、あの子は」

「姉さん!」

「成穂さん? 本当にそうなのならやっぱりツンデ――うぉお!」


 無線家と思ったら目の前に成穂さんが居た。しかも宇宙服も着ず何時もの恰好で。

「だ、大丈夫……なのね」

「はい」

 真空の筈なのに成穂さんの声もはっきり聞こえる。もう何も驚かないと決意しては直ぐ驚いてしまう。

 成穂さんといると心臓が幾つあっても足りないな。

「問題ありません」

 何が問題ないのか聞きたいような聞きたくないような。

 そんな成穂さんは無重力の中を優雅に泳いでいる。推進力はどうなっているのか、スカートはどうして捲り上がらないのかいろいろ気になるが。

 それでもまるで人魚のような動きと、恒星に照らされて虹色に輝く銀髪が漂う様は、何もかも忘れてしまうくらい美しかった。

 

「ご主人、何のために外に出たんですか」

「おおうそうだった」

 若葉さんの声に我に返り、当初の目的を果たすべく動き出すことにした。

 

「金を取って帰るぞ!」

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