第二話 俺氏、新造艇で掘られる②
「若葉が行ったのは人類の気付かれていない構成要素の抽出です」
「詳しくプリーズ」
「とある対象から素材を得る。それは様々な世界で行われてきました。この宙空界面世界外でもという意味です」
「ちゅうくう?」
成穂さんが時折口にする『中空界面』というのは世界を覆う膜なのだそうだ。
時間も空間も、あらゆるものを断絶する膜。
それを越えられるのが成穂さん達『機動艦』の称号を与えられた存在なのだそうだ。
成穂さんが名前にこだわる一端がいきなり明らかになったな。
「私も越えられますよ。姉さんほど一度には無理ですけど」
静かに聞いていた若葉が口を挟んだ。
俺には分からんが、まあプライド的なものを刺激する話らしい。
「話を戻します」
「おっとごめんなさいな。続けて先生」
「……生命から素材を得る、もっとも簡単な方法は捕食することです。それならば余すことなく対象を活用できます。しかしそれでは栄養としてという限定的な方法でしかありません」
なるほど。確かに食えば腹は満たされるが、それ以外には使えないな。だって腹の中だもん。
「ですから人類がそうであるように、様々な存在は様々な方法を編み出しました。焼いて油をとる、乾燥させて保存をよくする、水に溶かして扱いやすくする、砕いて燃料にする、熱して形状を変える、混ぜる、流す、擦る、千切る、磨り潰す」
なんか怖い話になってない?
「そしてある場所である方法が確立されました。それを使えばその対象の構成を無視した素材が獲得できるのです」
「……それを使ったのがこの金玉?」
「応用ですが、間違ってはいませんよ」
答えたのは若葉だった。
「本当に俺からこの金玉が採れたの?」
「主は下品ですね。金玉金玉うるさいです」
「こらっ女の子が金玉とか言っちゃ駄目でしょう!」
でもちょっと嬉しい。
「はぁ~これが私達の主人なんですか……少し、いやかなり辛いです」
そんなこと言わないで、可愛い女の子にはセクハラしたくなっちゃうの。
「慣れます」
成穂さんは今日も辛辣だ。
「ではさっそく、この星の人類から金を採取しましょう」
いや駄目だろ。身体から何時の間にか金玉抜かれるなんて怖すぎる。
そう言おうとした時、
「却下します」
なんと若葉さんを止めたのは俺ではなく成穂さんだった。
「か、簡潔……どうしてですか姉さんこれなら数十秒でご主人の金策は完了するんですよ!」
「時間は問題ではありません」
なんと。今までその破天荒さで問題をおこし続けていた成穂さんが、それを諫める側に回るなんて……。
成長している。確実に成長しているぞ成穂さんは!
「主が求めている量を越えます」
「嫌そうじゃないでしょ」
首傾げないで、不思議そうにしないで。
「金の所有者は個人にあります」
いやまあそうだけど。そうなんだけど。
「……女性からも取れますよ」
「いや俺でもそこまで倒錯した性的趣向はないぞ」
「じゃあ何が駄目なんですか?」
「よくぞ聞いてくれた若葉さん」
そんなの当たり前だ。
「金玉が抜けるって怖い」
「……それだけですか?」
「理解できませんね」
あれれー二人は「こいつおかしいんじゃないか?」みたいな顔してこっちを見ているぞ。いや成穂さんは何時ものお澄まし顔だけれど、若葉さんは顔に出るからなんか辛い。
「いやおかしくないだろう、どこから出てきたのかも分からない金玉を渡されて『あなたの金玉です』って言われたら怖いだろう!」
「ご主人、この方法はまだこの世界では利用されていないのです。私はまだ技術的に採掘できない深い金鉱を先に掘っているだけなのです」
「その採掘場所が人体ってのが怖いんだよ!」
若葉さんはフゥーと溜息を吐いて首を振る。本当にこいつ感情豊かだな。
「ただちに人体に影響はありません」
「怖えよ!」
*
結局、どういう影響があるのか分からなかったので人類採掘計画は白紙に戻った。
問題ないと言われても、使わない、気づいていない物でも勝手に取られるのは誰でも嫌だ。俺だって嫌だ。
そして俺の体から出た金玉は、戻さなくてもその分は直ぐに回復するというのでそのまま。今は俺のポケットの中に入っている。
どれぐらいで回復するかにもよるけれど、もしかして俺は最強の金策法を見つけたのかもしれない。でも自分から出た金玉を売るのは怖いなあ……。
そんな訳で当初の予定通り、俺達は『宇宙船若葉さん』に乗って最後のフロンティアへと繰り出したのだ。




