第二話 俺氏、新造艇で掘られる①
「ようこそ『若葉』へ!」
その言葉で迎えられた船内は、非常にそれらしい、簡単に言うとSFらしい内装だった。
気密室を抜けると小型という割には長い廊下が左右に伸びており、白い照明に照らされた白を基調とした金属せいだろう通路が否が応でも期待を高める。
なにせ初めからブヨブヨでも肉肉しくもないのだ。
「若葉はご主人の考える『宇宙船』を素案として設計されています。BDDも可能ですが、私に比べると効率は劣ります」
「なるほど。でも急に新用語を出すのは止めた方がいいぞ」
なにさビーディーディーって?
「ワープです」
「簡潔!」
「姉さんもご主人も漫才していないで早く付いて来て下さい」
若葉の親を急かす子供の様に奥へと誘う仕草が微笑ましい。でも何故か「ご主人様」呼びから「ご主人」になっている。それがぼかぁ気になっちゃうなあ。
「はい、ではご主人はここで身体検査を受けて貰います」
「おれぇ⁉」
何ということだ。あっという間に紳士諸君の期待を裏切るとは。若葉、恐ろしい子。
こんなことはあってはならない。軌道修正しなければ。
「する理由はない。そんなことをするより、姉妹で、ねえ、姉妹で検査しあう、とか、ハァハァ……どうかな?」
よし自然な誘導だ!
「……きも」
あ、これ辛い。マゾとか誤魔化せないくらい心に来る。
「若葉は主の健康を心配しているのです」
成穂さんのフォローに若葉さんはウンウンと頷いている。俺のフォローをしてくれ成穂さん。
「……そういうことなら、まあ、お願いするかな」
健康診断なんて学生の時以来したことなんてないし、この際だし診て貰おうかな。
とまあ俺はそんな甘い考えでいたのだ。
*
「じゃあ横になってくださいね」
「あ、はい」
俺はメディカルルームと表示された部屋に通された。そのまま部屋の中央にあるベッドに寝かされる。
室内も廊下と同じく、THE宇宙船といった感じの内装である。
「それじゃあ大人しくしていてくださいね、直ぐ済みますから」
若葉さんはベッドの側にあった機械を弄りだした。
うーん前にもあったなこんな状況。
「成穂さんと初めて会った時の事を思い出すなあ」
宇宙船に拉致された俺は、ベッドで目を覚まし、そこで美しい成穂さんに出会ったのだ。
「ええ、そうです。そこで主は私にプロポーズしたのです」
「そうそう……そうそう」
確かそうだった、そうです、そうでした。
「一目見た時から俺は成穂さんに惚れたんだった」
あのぬねる目、流れる指紋、彩の皮膚。全てが美しかたなあ。
「あれ? 私が姉さんから共有した情報では目が覚めた途端――」
「この話は止めましょう」
「そうですね、これ以上はご主人が怪しいです」
二人とも一体何を言っているんだろうなあ?
「しばらくお休みなさいませ、主」
そこで俺の意識は突然切れた。
*
「主、起きて下さい。終わりましたよ」
どうやら眠ってしまったようだ。
「おう寝てたわ」
「異常なしでしたよ」
「そうか良かった」
俺も健康が気になる始めるお年頃だ。その朗報は素直に嬉しい。
「しかし何でまた急に健康診断なんて始めたんだ?」
「金を掘るためですよ」
「え?」
若葉さんは俺の前に手の平を差し出す。そこには何か乗っている。
「それは……」
ビー玉のような形、しかし黄金色に輝くそれは、まさかの、まさか……。
「金ですよ」
若葉さんは事も無げに言い放った。
「え、ちょっと、え?」
何が何だか分からない。まだ宇宙船に乗りこんだばかりなのに。
「多機能フリゲート艦です」
「成穂さん、今はそれいいから」
「多機能フリゲート艦です」
「あ、すみません」
そうではなくて。
「その金玉……俺のなの?」
「そうですよ」
俺は思わず手で股間をまさぐる。
……大丈夫、二つ付いてる。
「下品ですよご主人。睾丸が金でできている訳ないじゃないですか」
そりゃそうそうだよな。
それならあの金玉は一体……。
「これはこの世界の人類が保有する、PP@=0ースから精製した金です」
「え、ピピース?」
「まあそれでいいです。それによりご主人から46.36グラムの金塊が取れましたよ」
そう言って若葉さんは金玉を差し出し、にっこりと笑った。
手の平にある金玉を眺める。手の平の上でころころと転がるそれは、見た目以上に、想像以上に重かった。
……これが俺の体の中にあった? そんな馬鹿な。
どこかの等価交換をする漫画で、人体を構成する要素を知ったことがある。それで気になって色々調べたのだ。
そこには確かに身体には金が含まれていると書かれていた。だがしかし、それは人体を形作る元素の中では最低だったはずだ。
「……どういう事?」
「これでわざわざ遠出しなくてもお金を稼げるじゃないですか。この地球には76億の『人』が居るんですよ。大体一人46グラムなら39億9千6百キロですね。億万長者じゃないですか」
すっごい自慢げにそう語る若葉さんは冗談を言っている様子はなかった。
このままでは不味い。そんな予感が今までの経験から、いや、俺の秘めたる第六感が警鐘を鳴らす。
こういう時は――
「まままま、落ち着いて若葉さん。成穂さん説明プリーズ」
人を頼るのだ。何事も一人で解決できることの方が少ないしね。




