第一話 俺氏、金策パート2②
「主は金が欲しいのですか?」
「欲しいです」
それにつけても金の欲し……カールが食べたくなってきた。
「……取りに行きましょうか」
「へ?」
「採掘するのです」
おいおい、これだから社会を知らない宇宙人は困るぜ。
まず土地を買うだろ? それでさえ困難で、国に採掘許可を取るのだって――
「近くに所有者の存在しない金鉱脈があります」
「……いや、土地とか」
「必要ありません」
おいおいおい。成穂さんが不良になっちまっただ! 全てを記憶操作で片付けようとするなんて!
「そんな風に育てた覚えはありません!」
「……宇宙です」
「そんなことばかりしてっ! それじゃあマンネリ化は……宇宙?」
「貴方がたの言う宇宙には所有権も採掘権も存在しないはずです。これなら法に触れません」
なるほど……宇宙か。忘れてた。成穂さんは宇宙船だったんだった。
「機動艦です」
それなら法に触れないだろうし、そうだとしても誰も証明できないだろう。
宇宙に金を取りに行けるのは、この地球上で成穂さんぐらいなのだ。あとNASA。
「やろう」
思い立ったが吉日である。
「この時の為に小型艇を用意しました」
「小型艇だって!」
なんてワクワクするフレーズなんだ!
今までのなんちゃってSF展開が、このワードでチャラになる。それぐらい男の子を興奮させる。その言葉は専用機である。
「主は機動艦が大きすぎると感じているようなので製造していました」
戦艦はいい。確かにいい。しかしその巨大さ故、大人数で動かす前提の造りなのだ。
反面、字の如く小さな船、小型艇はまさにオンリーワン。自分好みに弄れる秘密基地的興奮があるのだ。
「っていうこと、分かる」
「はいいいえ」
つれない成穂さんもいいなあ。何時もだけど。いいや、何時もいいってことさ!
「……」
止めて下さい。そんな目で見られると興奮が恥辱に変わってしまうから。あれ、どっちも興奮するぞ?
俺は成穂さんのサプライズに大いに興奮し、また感謝したのだった。
*
翌日。
職場の店長には仮病を使い休みとさせてもらった。
もちろんばれて「お土産買ってきたら許しちゃう!」と言われました。
なら成功させて、度肝を抜くお土産を持って行ってやろうじゃないか。買った訳じゃないけどな。
「ってことでさっそく行こう!」
「紹介します。宙空界面多機能フリゲート艦。個体ナンバー8903801―DFFMです」
「初めましてご主人様、どうか個体名称をお授け下さい」
「……イエスロリータノータッチ」
「登録を完了しました。これからはイエスロリータノー――」
「待って待って違う違うそれは名前じゃないから!」
「分かりました破棄します」
小首を傾げたその少女は、可愛かった。
……どういうことだ。目の前にはお子様が居る。
見た目は成穂さんを小さくしたような銀髪銀目。しかし少々釣り目がちの目が成穂さんとは違って、勝気さや活発を印象させる。つまり美少女可愛い。
年齢は女の子化したチャッピーと同じくらいだから、たぶん小五年くらいだな。
服は白が基調のセーラー服のようで凛々しさも感じさせる、ジャケットを羽織っている。大人びた感じだな。
ではなく、
「どどどどどういうことですか成穂さん」
「小型艇を用意したと」
「いや女の子じゃん」
「小型艇です」
わからん、宇宙人の考えることはわからん。
「あの……ご主人様。名前を付けて頂きたいのです……」
あーあかんわーこの年にご主人様呼びはあかんわー。犯罪だわー。怒涛の展開だわー。
「あの……」
あーそんあめれみないれーぼくじょうかしゃれりゅよー。
「おい早くしろ」
「はい」
何? 今すっごいドスの効いた声が聞こえた。
「名称の登録をお願いします」
笑顔がひまわりみたい。うん空耳だね。んなわけねえ、やばいやっぱり成穂さんの妹だわ。
「*?&#を分けた……血を分けた姉妹なのですから良い名称をお願いします」
うーんプレッシャーで胃が痛くなってきたぞ。美人姉妹に囲まれているのにおかしいぞぉ。後何を分けたって? 構造材とか?
「うーんどうしようか……」
早く決めたい。そうしないとあの可愛い顔から怖い声が聞こえそうだから。でも思いつかない。成穂さんもなんか怖い。
「早く決めて下さい」
「成穂さんの時みたいにヒントとか……」
「早く」
「はい」
うぅ、少し低くなってる。でも可愛い。
「おい」
「はい」
でも怖い。
うーん考えろ。可愛くていえすでのーなろりーたで、成穂さんの妹みたいで、超絶美少女で、小型艇で、俺の秘密基地で――
「君の名は若葉だ」
「若葉」
おうむ返しに自分の名を呟いた少女は、驚いた表情を見せる。しかしその頬は微かに赤く色づいて見えた。
「成穂さんも植物系の名前だし、若葉もそれに統一しようと思って」
あと秘密基地といえば木の上が定番だ。
「だから木に関係する名前にしました」
「安直ですね」
「申し訳ございません」
俺は素早く土下座をかました。
この子は表情があるから心に来るのです。だからもっと優しくしてください。
「登録完了しました。これからよろしくお願いします、ご主人様」
頭上から聞こえてきた声は、それまでの余所行きの声とも、時折空耳なドスの効いた声とも違い――
「うんよろしく」
俺が顔を上た時に見た表情は。
「楽しくなりますね」
見た事もないくらい最上の、愉悦の表情だった。
「ひえ」
「主。それでは挨拶も済んだことですし、処女航海に出かけましょう」
俺はあの時の若葉さんの表情の意味を聞くことも忘れ、成穂さんの「処女航海」という言葉に、
「うん」
と、期待ともう一つを膨らませることに全霊を傾けていた。
「さあご主人様、こちらですよ」
「はーい」
若葉の接待っぽい笑顔に完璧なまでに釣られた俺は、そのまま素直に導かれる。
そして何時の間にか再び出現した押入れの金属製扉へと足を踏み入れたのだった。




