第三話 俺氏、異世界転移する②
「家だ……多分」
光の下に在ったのは奇妙な建造物だった。
それが誰かの手によって作られた人工物なのは間違いない。森には不釣り合いなそれは角ばっていて、そして巨大だった。
壁面に取り付けられた小さな丸い窓にはガラスは嵌められ、それが上下左右共に均等に並んでいる。そこから辿ってきた明かりが漏れ出ていた。
見える全ての窓からは明かりが煌々と森を照らしている。見える全てと言ったのはその建造物は森の樹々が創り出す天然の天蓋をぶち破って天へと伸びているからだ。
「高さは……木に隠れて分らんな。幅も暗くて分らん」
それぐらい周囲の木は大きく森は深い。煌々と明かりを放つ窓も、遠くのものは木の枝に隠れて見えない。
「誰がこんな所に作ったんだろうな?」
周囲に道も見えず、似たような建材になりそうな石もない。木々よりもでかいこの建物はどうやって建てられたのだろうか?
「まあいいや」
休ませてもらおう。
見るからにホテルと云った感じの建物だ。突飛な丸い窓があるところからしてラブホテルなのかもしれない。それでもいい、今は兎にかく休みたい。
独り言も疲れのせいか絶好調だしね。
「……入り口は何処だ?」
どうやら裏手から来てしまったようだ。それなら道もない筈だ。
「やっぱりここは日本の田舎だったんだなぁ……焦って損した」
田舎には辺鄙な所にラブホテルがあるのは当たり前だ。時折潰れたラブホテルが山に飲み込まれ、廃墟マニアにネットで取り上げられたりもするくらい当たり前なのだ。
「しかしでかいな……それも新築っぽい。部屋も全室埋まってるっぽいし、儲かってんなあ」
建物の正面に出るため壁に角を曲がり手を当てて進んでいく。その手触りから建物の高級感がよく分かる。
大理石のタイルを使っているのだろうつるりとした壁。こんな森の中だというのに泥に汚れた個所もない。きっと雨の後にしっかり清掃をしているのだろう。継ぎ目がないのはいい職人を雇ったからだろう。
極めつけは窓から漏れる光だ。見える限り全ての窓が光っている。ということはそれだけ客が入っているということだ。
「これはもしかすると高級ホテルかも……」
それは不味い。今の俺は帰りの電車賃も含めて四千円しか持っていない。これでは一泊どころかご休憩も怪しい。
「仕方がない。せめてロビーで休ませてもらおう」
でもこんなボロボロの恰好で入れて貰えるだろうか?
従業員の奉仕精神に期待しよう。




