第三話 俺氏、女子会で内股に①
「おお……やっぱり無理があるよな」
扉の先はまるで高級マンションの一室だった。
長い廊下に扉が幾つも見える。一つを覗いてみると、そこはバスルームだった。これは間違いなく以前侵入した、撫子さんの部屋を参考にしているな。ああ見えて成穂さんもこういう部屋に憧れているのかな?
いや、それなら俺のアパートで夕飯を作っているのはおかしいな。うーんどういうことだろう。まあいいや。
それにしてもこれはやり過ぎなのではないだろうか。どう考えてもあのボロアパートの一室というのは無理があるぞ。
まあ成穂さんも考えて、不信感を持たれないように色々しているんだろう。多分、おそらく。人の頭ってそう弄っていいものじゃない気がするけど。
そんなことより女子会だな。よし、情報を整理しよう。
俺はチャッピーを追いかけてきた体で、女子会に乱入。それを見た由紀ちゃん達が良かったらと、俺をお茶に誘う。
うん完璧なシナリオだ。
さて、何処にも見えないチャッピーは放って置いて。
ここだな。この部屋からキャッキャウフフな声が聞こえる。
大きく深呼吸。イクゾ。
「あのーここにチャッピーが来ませんでしたかなーとおもってー」
やべ、緊張して変な声が出ちゃった。
俺を迎えたのは沈黙。それそうだ。女子会に急におっさんが乱入すればそうもなるか。
「お邪魔しましたー」
逆再生するかの様の扉を閉める。しかし、その動きは聞き覚えのある声で止まった。
「わん」
やっぱりチャッピーはここに居たのか。意地汚い奴だ。きっとなにか美味いものにでも有りつけると思ったんだな。
しかし奴は犬。雄だろうが雌だろうが女子会に入る資格のある愛玩動物だ。連れて帰るのはよそう。独り寂しく退散するのがおっさんにはお似合いさ。
再度逆再生を開始し始める俺。しかしその時女神が舞い降りた。
「おじさん遅いよー早くこっち座って!」
声に顔を上げると、なんと由紀ちゃんが笑顔でこちらを手招いているではないか。
それだけではない。その場にいる皆も、俺を待っていたかのように笑顔を向けてくれている。
なんということだ。俺はいらない子じゃなかった。俺だけが仲間外れにされていると勘違いしていたんだ。
「おじさんこの席開いているよ」
「遠慮せずにどうぞ」
「お菓子もいっぱいありますよ」
「歳が近い人が居るとやっぱり安心しますね」
「……」
「わん」
ああ、「もうお姉ちゃんも若いんだから~」なんていうノリツッコミが遠くに聞こえる。台所に居たはずの成穂さんがここに居ることにすら「そうだよね、宇宙人だもんねきゃは」と可愛く返せるくらい満ち足りている。
俺は歴史上唯一、女子会に足を踏み入れたおっさんとして、未来永劫語り継がれるだろう偉業を今、成し遂げたのだ。
今の俺は鼻がずびずびで涙でぼろぼろである。
「どうぞ」
成穂さんがティッシュを渡してくれる。
ありがとうありがとう。
「はいケーキ」
由紀ちゃんがケーキを切り分けてくれる。
ありがとうありがとう。
「いったいどうしたんですかおじさん?」
弥生ちゃんが心配してくれる。
ありがとうありがとう。
「でお姉ちゃんがあの店に居たのは――」
静流ちゃんが会話を盛り上げてくれている。
ありがとうありがとう。
「その話はもうしないって……フィールドワーク! フィールドワークだったの! ほら大学で――」
ありがとうありがとう。
「わん」
ありがとうありが――
ん?
「わん」
チャッピーの声が聞こえる。しかしチャッピーの姿が見えない。これは一体どうしたことだ。
「チャッピーに甘い物って大丈夫なのかな?」
「え、どうしてだ? 由紀は食べさせていないのか?」
「雄でも女の子なんだから甘い物好きに決まってるよ」
「そうね。だからあのお店ではね、ねえちゃんと聞いてる静ちゃん?」
「そうだよね……なんで私そんなこと気にしちゃったんだろう? はいチャッピーの分」
「わん」
俺の目の前には年の頃14、5歳くらいの可愛らしい女の子が、椅子の上にカエルのような恰好で椅子に座っている。
その女の子が由紀ちゃんに差し出されたケーキをまるで犬のように貪っている。
「もうちゃんと食べなきゃ駄目じゃなか、女の子なんだから」
「わん」
女の子。そう弥生ちゃんに諭された女の子は普通に椅子に座り、普通にフォークでケーキを食べ始める。
なんだこれ。
「ちょ、ちょっと待ってこの子って……声が何だかおかしいな」
俺の声ってこんなに高かったっけ?
「もう! おじさんも女の子なんだからもっとお淑やかに!」
「……はい」
由紀ちゃんに叱られた。私の気持ちがしょんぼりと落ち込む。つい内股になり、手をぎゅっとスカートを履いた膝の上に……やっぱりおかしい。
まずは確認しなければ。
俺は部屋を見渡す。
部屋はどこぞのベルサイユだとでも言わんばかりの豪華な部屋だ。精巧な模様の入った白い壁、ふわふわとした床の赤いじゅうたん。どれぐらいの値段になるのか分からないアンティーク家具。しかし探しているのはどれでもない。
俺が探しているのはあれだ。
巨大な姿見に駆け寄った俺は可愛らしい、本当に可愛らしい声を上げてしまった。
「ひゃあ」
そこにはなんと悟りを開いた姿。つまりは小学校五年生くらいの美幼女が驚いた顔でこちらを見ていたのだ。




