第二話 俺氏、女子会に夢抱く①
あの後、帰ってきた店長に事情を話すと「貴方も今日は早めに上がっていいわよ」とのお言葉を頂いた。
そうして普段は帰宅するわけであるが、今日は気が進まない。
それは何故か。
お茶会の会場が俺の部屋だからだ。
始めは喫茶店や軽食屋で開かれていたお茶会は、次第に俺のアパートで行う回数が増えていった。
理由は様々だ。
まず中学生のおこずかいでは何度も外食など出来よう筈がない。それにこの田舎町では集まれる場所など数えるほどしかない。飽きてくれば別の店に行くわけだが、少し遠くに行くには電車かバスを使う必要があり、それにもお金がいるという悪循環だ。
あと推測だが、由紀ちゃん達は成穂さんに見栄を張って高めのお店に行こうとしていたのではないだろうか。
成穂さんは何もしなければ、座っているだけでそこがお城の庭園なのではないかと錯覚してしまう謎の気品がある。窓際に座ってくれればお店にとってもいい客引きの飾りになりそうだ。
だから由紀ちゃん達が無理するのもあり得る話だ。まあ牛丼屋に連れて行った俺が気にすることではないな。
そういえば最近あの牛丼屋も混んでいることが多くなった。
記憶操作は印象までは操作できないらしい。
そしてそれが、俺の部屋が女子会会場になる最も大きな理由だ。
それは成穂さん自身が物凄く目立つのだ。
今の成穂さんはほとんど黒髪黒縁眼鏡で生活しているわけだが、それでも目立つ。そして由紀ちゃん中学生組も皆美少女と言ってもいい。
そんな女の子がハンバーガーチェーン店でキャッキャウフフしていたら誰しも見る。俺だって見る。
そんな素敵な風景を遠くから眺めるだけで満足しない人々が居た。リア充どもだ。
リア充、ヤンキー、人生勝ち組。色々言い方はあるが、つまりは女性に物怖じせずに話しかけられる人種である。
そんな彼らが美少女集団をほおって置くはずがなく、彼女達に絡む事態が多々起こったのだ。
成穂さんの対処。まあ記憶操作のお陰で大事には至っていないが、それでも迷惑なものは迷惑だ。
結果、俺のアパートで女子会を開く頻度は日々日々増していったわけだ。
この話は帰りが早かった成穂さんに聞いたので間違いない。
「さてどうするか……」
その結果、俺はこうしてアパートの前で二の足を踏んでいるというわけである。
今日は眼鏡っ子静流ちゃんのお姉さんも含めて五人があの四畳半の部屋に居るのだ。俺が踏み込めよう筈もない。
いや入りたい、入りたいのだ。
俺も女子密度マックスな部屋で一緒にキャッキャウフフしたい。混ざりたい。しかし、おじさんにはそんな度胸も甲斐性もない。
「せめて全裸なら……」
全裸であれば俺は無敵になれる。全てをさらけ出した姿こそ本来の俺になれるのだ。
それが出来ない法律が、社会が憎い。俺の全力を封じる全てが憎い。
本来の俺であれば怖気づくことなくキャッキャウフフに飛び込んでキャッキャウフフ出来るのだ。
服こそ俺の高速具なのだ。あと脱ぐと気持ちいい。
「まてよ」
そこで俺ははたと気づいた。
「自分ちで服を脱ぐのは普通じゃね」
向かう先は自分のアパート、自分の部屋。何をためらう必要がある。
正義は我にあり。
「わん」
「うぉう」
気付けば足元に犬が居た。
「なんだチャッピーか」
「わん」
この犬はご存知チャッピー。由紀ちゃんの家、相沢家の一員で2才のオス。ハスキーと柴の雑種でワンしか喋れない普通の犬だ。
俺と相沢家がご近所付き合いする切っ掛けになったのも、こいつのお陰なのだ。
「なんだよお前、また抜け出してきたのか?」
「わん」
「いやまあ……な。入りづらくてな」
俺は犬になにを愚痴っているのだろう。
「わん」
「あ、おい待て!」
チャッピーは突然走り出し、俺の部屋の扉をカシカシと引っ掻きだした。
ええい。後は野となれ山となれだ。
俺はチャッピーの後を追うのだった。仕方なく、仕方なくね。




