第四話 俺氏、人体の神秘を考える②
後日談。
ある日のアダルトショップの仕事中。
その日は成穂さんがバイトに来ておらず、俺がレジ打ちをする日だった。
そこで奇妙な客を見つけた。
サングラスに大きいマスク。ロングコートを着込んだ客だ。
そんな格好だから奇妙だというのではない。顔を見られたくないと、変装してくる客はたまに居るのだ。
俺もロングコートを着て散歩に出ることもあるしね。最近してないなあ……おっと話が逸れた。
結論を言うと、俺が奇妙だと思ったのはそれが女性だったからだ。
女性の客も珍しいという程ではない。彼氏連れの恥ずかしがりながら来店する女性客も居る。血涙が出るほどに居る。
しかしその女性は一人。しかも変装してやってきた。これは珍しい。
その女性客はキョロキョロと警戒しながら、陳列棚を進んでいく。ちなみに他に客はいない。おそらくそのタイミングを店の外で見計らっていたのだろう。
しばらくするとお目当てが見つかったらしいその女性が、商品を隠しながらレジに近づいて来る。
「あっ」
マスク越しに小さな驚きが聞こえた。
しばし逡巡していた女性がコートの裾から取り出した商品をレジに置く。
俺はそれを事務的な所作でバーコードを読み取り、値段を告げる。
「1680でーす」
ここでにやけたり茶化したりしてはいけない。アダルトショップの店員は常にクールでなければならない。燃えろ俺のジェントル魂。
女性客が財布を取り出している間に、その商品を観察する。だってしょうがないじゃん気になるじゃん。
それは女性用と言われるタイプの商品で、電池を入れて動くマッサージ器大丈夫なのか。凶暴性を感じさせない可愛らしいデザインである。いいセンスだ。
ん?
俺にはなんだかそのシルエットに見覚えがあった。何故だろう、最近見たような?
パッケージに描かれたその形は、細めでやや曲線を描き、とぐろを巻くようならせん状の凹凸が――
「ッ」
声を出してしまうところだった。
「い、一万円で……」
そのか細い声で疑念は確信へと変わる。
間違いない。高城撫子さんだ。
「いちまんえんおあずかりしまーす」
ジェントルにジェントルにだ俺。
レジを操作する間に俺の中でパズルのピースが埋まっていく。
彼女の部屋の飾られた貝は巻貝が多かった。
あの時触れた巻貝モドキは濡れていた。
成穂さんは言っていた「使用法がまだ判然としません」と。
そして発射された依存体駆除兵器。
今全てが繋がったのが。
*
「ありがとうございましたー」
いそいそと袋を大事そうに抱えて店を出ていく彼女を見送る。
撫子さんは驚いたことだろう。なにせ勇気を出して入った店に、あの貝を売った人物がいたのだから。
彼女はあの巻貝で開いたのだ。新しい扉を。
俺は素直に祝福を送る。彼女の新しい趣味生活で人生に潤いがもたらされることを。
「しかし成穂さんにはどう告げようか……」
きっと彼女には理解できなかったからこそ、この解に辿り着けなかったに違いない。貝だけに。
「まあそっとしておこう……」
うぶな成穂さんにはまだ早い話である。
からかう材料に後で取っておこう。どんな顔で赤面するか楽しみだぜぐふふ。
しかし俺はその時忘れていた。俺の心は成穂さんに筒抜けである事を。
その日の夕食は雑草汁だった。
いくら理由を問おうとも、成穂さんは決して言葉を発することはなかった。
そうして給料日のその日まで成穂さんの機嫌は直ることがなかったのである。




