第四話 俺氏、人体の神秘を考える①
俺達はその後、成穂さんが部屋を修復したのを見届けてその場を後にした。
撫子さんには記憶操作をして、先程の一件が無かったことにしてもらった。まあ不法侵入もやらかしているし。
それに彼女には謎のなんたら依存体というよく分からない存在でも、大量殺戮を意図せずにでも引き起こしたことなど知らない方がいいに決まっているのだ。
俺の怪我は何時の間にか痛くなくなっていて腫れも引いていた。まあ口を切ってちょっとばい菌が入った程度だったのだろう。
そんな夕暮れ時の帰り。
道すがら手にした巻貝モドキを眺める。
撫子さんの部屋には本物そっくりの偽物を置いてきたのだ。始めからそうすればよかった、と言うのは野暮だ。誰も、宇宙人ですらこんな騒動になるとは知らなかったのだから。
今手にしているのは騒動を起こした本物。ぬめりは既に渇き、すべすべとした触感を手に返してくるのみだ。
「結局この兵器とやらが彼女に使えた理由は分かったのか?」
「おおよそ解りました」
「あら、成穂さんらしくない曖昧な返事」
横顔を盗み見る。
その端正な顔立ちからは、悔しいとか、恥ずかしいとか、まあそういった感情は読み取れない。何時もの顔だ。
「この兵器はある特殊な条件が揃った時、この星の人類にも使用可能であると判明しました。彼女、高城撫子はその稀有な才能と運の持ち主だったということです」
「才能と運ねえ……」
まあこの場合は、運が悪かったということだな。
「あれ? そこまで分かってなにが分からないの?」
それで事件解決、QEDでいいはずだ。
「彼女の使用法がまだ判然としません」
使用法ねえ。
「本来、その兵器。*=$#&%&*{}。巻貝モドキはある種族が使用するに特化した形状をしているのです。ですから『人』が使用することは本来不可能なはずだったのです」
その言葉に、もう一度視線を落とす。
確かに持ちてもなければ引き金もない。どう見てもただの細長い巻貝だ。どうやって撫子さんはこの兵器を作動させたのだろう。
「後そのゲノムなんちゃらは数が減ったって言っていたけれどどうなんだ。問題ないのか?」
「問題ありません」
……簡潔でホッとする日が来るとは。
「PP+*?>>@。ゲノム非干渉型精神依存体はその存在自体が所謂自然現象に酷似した存在です。多い日もあれば少ない日もある。その程度の存在なのです。今回減った数も、暫くすれば元に戻るでしょう」
「ふーんまあ安心……あら、じゃあこの巻貝モドキって何のために作られたんだ? 自然現象に銃をぶっ放すくらいしか意味がないんだろう?」
「だから腹いせ、なんです。その兵器は失敗作なんですよ」
そこで俺はやっと気が付いた。
依存体を使って星間通信を行おうとしていた宇宙人と、この銃を作った宇宙人は同じなのだ。この巻貝モドキが作られたのは八つ当たりが発端なのだ。
なんと人間臭い宇宙人なのだろう。俺は見た事もない宇宙人に親近感が湧いてしまった。
「しかしそんな失敗作を後生大事に持っているとは……成穂さんの元主は相当な変人だな」
あのノリの軽い宇宙人はコレクター気質もあったらしい。
すると成穂は前に進み出て、こちらを振り返り、こう言った。
「ええ。主にそっくりです」
その顔は逆光でよく見えなかったが、何故か俺には笑っているように見えた。




