第三話 俺氏、金策どころではなくなる①
俺達は今、ショッピングセンターから移動し、最寄りの駅で電車に乗っていた。
理由はもちろんあの巻貝モドキを回収するために、買ってくれた女性に会いに行くためだ。
「それでその、なんとか精神依存体って言うのは本当に、本当に消えても問題ないんだな?」
「PP+*?>>@。つまりゲノム非干渉型精神依存体です」
「そうそうそれ」
「主にある一定数の生命と定義される存在が確認される宙域に存在する概念体で、あらゆる生命体と付かず離れずの関係を構築しています」
「引っ込み思案な方々なんですね」
「彼らの基本的な活動として『覗き』『噂話』『情報の伝搬』が挙げられます」
「井戸端会議の主婦かな」
つまりその、なんとか体は噂話が好きな幽霊みたいなものだということだ。それならば運悪く消えてしまっても、まあ問題にはならないかもしれない。
「とある星域では、その情報の伝搬能力を使って、星間通信技術に応用されていたようです」
「え、それって凄い技術じゃないか! ああ、俺ってなんてことをしてしまったんだ……」
俺は地球人からいづれ開発されたかもしれない星間通信技術を奪ってしまったのだ。
「だたその技術は地球時間で三日で廃止されました」
「え。それはなんでまた……」
「伝達された情報に齟齬、あるいは雑音が混じることが判明したからです」
「どういうことだってば?」
「嘘、大袈裟、紛らわしい、等のノイズです」
「……噂だから尾ひれはひれが付くのか」
本当に主婦の噂話じゃん。
成穂さんが言うにはそれでもその依存体には意識というものがないそうだ。
エントロピーが情報にだとか説明されたが、まあ少しは罪悪感が薄れたので有難かった。
*
「ここです」
「ここですか……」
目の前には田舎には不釣り合いな高層マンション。
成穂さんに指示されるまま辿り着いたのがここ。このマンションが巻貝モドキを買った彼女の住居だと言う。
「そりゃあ財布からポンと十万出せるんだから、こういう所に住むよなあ」
小市民である俺はもうすでに怖気づいています。もう帰っていいんじゃないかな。
「あれ以来あの巻貝からは発射されていないんだよね」
「はい。先程の24分16秒以後、四発目は発射されていません」
う~んそれならもういいんじゃないかな。
恐らくあの女性はサイ○ガンよろしく特殊な兵器を使用出来る才能があった。
そしてそれはあの三発だけ。しかも死ぬ、いや消えるのは噂話好きの幽霊みたいな奴だ。
もういいんじゃないかな?
「よし帰ろう」
「駄目です」
「はい簡潔」
駄目らしい。
しかし何故? あの巻貝が惜しくなったのか、それともなんとか体と成穂さんは遠い親戚関係だったりするとか?
「どのようにして*=$#&……つまり巻貝が使用されたのか興味があります」
「ふーん……あれ? 成穂さんならわざわざ出向く必要なんてないんじゃあ……」
「私は現場主義です」
そうだったのか。
「主がそうさせたのです」
そうだったのか?
「行きますよ」
はい。
高級マンションと言えばオートロック。これが俺達の最初の関門だ。
「どうしました、行きますよ」
「あれー?」
訪問販売か配達員か、どちらの演技が必要か悩んでいた自分を無視して自動ドアが開く。
成穂さんに現代防犯設備は無力だ。
成穂さんについてエレベーターに乗り、辿り着いたるは高級そうな扉の前。
そこは部屋番号はあれど表札はなかった。
しかし成穂さんの態度で、ここに巻貝を買った彼女が居ることは明白だった。
「ちょっと待った」
「何故ですか」
何の合図も無しに扉を開けようとした成穂さんを止める。
それは当たり前だ。もちろん怖気づいた訳でもないといえばない。
「相手は妙齢の令嬢であらせられるのでありまして、ここは慎重に常識的にインターフォンを押すべきであります!」
そう言いつつ身だしなみを整える。
ここは奇麗な女性と付き合えるチャンスかもしれないのだ。いや友達としてだぞ。それでも友達として、友達として! 両手に花な展開があるかもしれないしないかもしれないのだから。
「俺が押す」
――ピンポーン――
慣れ親しんだあの音が、静かな廊下に響く。それに心が少し落ち着くのを感じる。
だがしかし。
おかしい。いくら待っても出てこない。これは一体どういうことだ。
「本当にこの部屋で合っているんだろうな?」
「はい。在宅中です」
うーん……居留守を使われているのかもしれない。
本来こういう高級な所は、確か入り口わきのキーで訪ねる部屋の番号を入力して、住人に入り口の扉を開けて貰う必要があったはず。
しかし俺達はその過程をすっ飛ばしてここに来てしまっている。
なるほど怪しまれても仕方がない。
ではどうするべきか。
「出直すか」
これではどうしようもない。セキュリティの問題なのだ。
ここで彼女が出てくるのを見張るという手もあるが、俺には完璧宇宙人である成穂さんがいる。彼女がマンションを出てくる時間帯を調べる事などわけないのだ。
「うん、出直そう」
その時、成穂さんが不穏なことを口走った。
「中の住人の生命レベルが低下」
「え⁉」
「何度も発動したため、補助動力に切り替わったものとみられます」
くそ、なにがなんだか分からないが不味いことだけははっきりと分かる。
「補助動力ってなんだ?」
「彼女の生命力そのものです」
俺は勢い良く扉を開く。扉に鍵は掛かっていなかった。




