第二話 俺氏、掘り出し物を見つける①
こうして成穂さんの不用品一斉処分セールが開催された。
場所は近くのショッピングセンターの駐車場。
ここで折よく週末にフリーマーケットが開催されることになっていたのである。
俺達はそこに滑り込んで隅で店を開いた。登録費が払えないのでこっそりと、である。
「……無難なものを選んだ結果、パッとしない品ぞろえになったな」
並べられた物は、
大人のおもちゃ……俺の給料の現物支給品。
無地の食器類……豪華宇宙船の備品。
謎の像……同じく宇宙船の備品。
謎の仮面……同じく宇宙船(略)
謎の観葉植物……同じく(略)
謎の絵画……同じ(略)
謎の銃?……同(略)
と言ったほぼ謎のラインナップである。
成穂さんに「おかしな機能が無い物」という条件を出して、俺も確認した物が並べられている。
もちろん銃は特に念入りに確認している。
成穂さんによれば「決して人に影響がない玩具のようなモノ」と言われていても不安など拭えようはずもない。
結果。銃? はなにをどう弄っても弾が出ることはなかったので問題なしとした。一見すれば奇妙な細長い巻貝のような外見なので飾りとして使えるだろう。
あとの物品はまあ変なだけで大丈夫だろう。たぶん。
「いらっさい、いらっさい。珍しいものが揃っているよ~」
運営に目に付かないよう小声である。顔もフードを目深に被っている。これは隣で正座している成穂さんも同様だ。
う~ん闇市感が中二病心をくすぐるぜ。
*
まあ誰も来ないよね。
そりゃそうだよね。何時でも言い逃れできるように敷地外でやってるし、商品も食器類ぐらいしか目新しいものがない。
ああ大人のおもちゃは不味かったな。子連れが何度か逃げて行ったし。
「ママあれなに~」は魔法の言葉だな。効果は確実に逃走されるっていう厄介なやつ。
やっぱ隠しておこう。
やることもなく隣を眺める。
目深に被ったフードからでも漏れ出す神秘性をたたえた横顔が、楽しいのか楽しくないのか分からない雰囲気を放っている。
たよりの成穂様の御威光も、顔を隠しているせいで使えないし、家族連れも多い。売れると思ったんだけどな、大人のおもちゃ。
「こりゃだめだ」
俺は諦めた。
ゴロンと寝転ぶ。ここは駐車場の側を通る川に沿って舗装された歩行者専用道路だ。その端は丁寧に刈られた芝が植えられたちょっとした堤防になっている。それで寝心地はなかなか悪くない。もちろん頭が上に来るように川側に足を投げ出している。
つまり商品から背を向けている状態だった。
「これはなんでしょうか?」
頭の上から声が聞こえた。若い女の声だ。しかし成穂ではない。
「ひゃいいらっしゃい」
慌てて振り向くとそこには一人の女性が屈みこんで並べた品々に見入っている様子だった。
「あの、これは何の貝なんでしょうか?」
そう言って顔を上げた女性は美人だった。
年の頃は二十代後半といったところだろうか。
やや眠たげな眼差しではあるが、それを補うほどにくりっとした目。それを隠すように縁の太めの眼鏡を掛けている。
長いストレートの髪はクリップで留められ耳の方に垂らしている。それでも商品を眺めていた時に垂れた髪を漉く様子はフェチ心をくすぐる。
そんな彼女は秋物のコートとロングスカートでお洒落に決めていた。
きっと金持ちだそうに違いない。
「あの……」
「ああはいそれね。それは世にも珍しい……なんて言うんだあれ?」
成穂に耳打ちして尋ねる。
「*=$#&%&――」
「ああやっぱいいわ。えーとですねポッタル貝です」
ポッとあったから命名。タルの部分は適当だ。
「ポッタル貝ですか……聞いたことない……」
まずかったか? 貝に詳しい人だったらどうしよう。
「私珍しい形の貝を収集してるんです。こんな形の、奇麗な貝は初めて……」
まずい。詳しい系の人だ。
「触ってみてもいいですか?」
「ええもちろんもちろん是非」
迂闊なことは言わないようにしよう。
彼女はしばし、貝を撫でたり、持ち上げて重さを確かめたり、色んな角度から眺めたり……とまあじっくり品定めを繰り返す。
時折「へえ」とか「ふあぁ」とか「ああ」とか独り言を呟いているのがとても可愛いです。
「うん決めました。これ買います! 買わせてください!」
「毎度ありーー!」
やったぞ。初めて売れた!
「それでお幾らですか?」
「えーと……」
それで気付いた。値段すら決めてないし、値札すら置いていないことに。
そりゃ売れないわけだわ。時折この端っこまで見に来てくれる人もいたが一べつしただけで去っていったのはそういう理由もあったのだ。
しかしどうしよう。
貝の相場なんて俺知らないぞ。
「おい、おい成穂さん」
「なんでしょう」
「これってどれぐらいの価値があるんだ?」
もちろんこの会話はこっそり小声である。商売の基本として原価を客に知られるのは愚策なのだ。
まあ成穂さんは分かっていないようだが。やれやれ。
「これはこの星の公転周期で約8億年前にせいぞ――」
「ええーー8億年前‼」
びっくりした。急に大声出さないでください。
「それってカンブリア紀よりも前じゃないですか……そんな貝が現代も生きていたなんて私知らなかった……ロマンチック……」
不味いですね、これ以上成穂さんに喋らせるのは。
「えー諸説あるというだけで、それが確定したわけではなくてですね――」
「欲しいです絶対欲しいです 売ってください幾らですかっ!」
……これだからオタクは~。でも助かった。ぼろが出る前に売ってしまおう。
「えとですね……値段は三千え――」
「買います!」
「いや五千円」
「買います!」
「……一万円」
「買います!」
おいおいおい、なんだか申し訳なくなってきたぞ。
「それじゃあこれで! これだけあれば売ってくれますよね!」
売り渋っていると思われたのだろう。
彼女は高級そうな財布から厚みのある万札の束を、すごい勢いで俺に押し付けてきた。
恥ずかしながら小市民な俺は、その大金を反射的に受け取ってしまったのである。
「こんなにいら――」
「それじゃあありがとう!」
顔を上げた時には彼女の姿はもうなかった。ただ、
「引っ越してきてそうそうこんな掘り出し物に出会えるなんて」
その呟きだけが耳に残った。




