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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第四章 宇宙船で金策を
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第一話  俺氏、金欠になる③

「貨幣の制作――」

「はいダウト」

 この宇宙人様は時に恐ろしいことをさらっと言いなさる。

「犯罪は駄目ですね。これ地球人とのお約束」

「履行します、では我々が造幣局を設立――」

「あー違うんだなーそうい事じゃないんだなー」

 そんな子供銀行みたいな発想をしてしまうのが恐ろしいわ。

 

「それなら艦にある不用品を売り払ってはいかがでしょう」

「お、それなら現実的でいいな」

 有限な資源を必要な人が利用するリサイクル。これなら犯罪臭もしないし、不用品であるなら成穂の懐も痛まない。

 

「無理しなくても本当に要らないものでいいからな」

「わかりました」

「ちなみにどんな物があるんだ? もちろん売れるものだぞ」

 一抹の不安。いや百抹の不安と共に尋ねた。

「こういったものです」

「……なんだこれ?」

 

 成穂が何処からともなく取り出したのは、形容しずらいもの。

 例えるなら、爬虫類の卵に肉片がこびり付いたとでも言うのだろうか。その卵は不思議な色合いで光っている。


「放射能物質ではないだろうね」

「違います」

 違うらしい。やはり卵か?

「薬です」

「……人が飲めるの?」

「飲めます、実証済みです」

 一体何時実証試験を行ったのかはこの際置いておく。

「何の薬?」

「過去未来現在の同一個体の意識を統合します」

「うーん?」

「投薬者はこの時空において、完全なる個となります」

「つまり?」

「もっともこの世界で近い存在は神です」

「はい却下」

「何故でしょうか?」

「はーい馬鹿馬鹿ー成穂ちゃんは馬鹿ー」

「質問を繰り返します、何故でしょうか?」

 何故も何もない。

 こんなもんほいほい売れるわけがないでしょうが。

 ちなみにこの卵はどこかの誰かさん達の風邪薬の原料だそうだ。

 

「……他にはないのか? もっとこう本当に要らないものとか? くだらない物とか」

「……」

 あの成穂が悩んでいる。この計画は凍結間近だな。

 

「これならどうでしょうか」

 取り出したのはお盆のような白い円盤だった。光沢があるので金属の様に見える。

「これはどういうものなんだ……?」

「この星では電気という現象が様々なところで活用されていると理解しています。これはその電気に近いものを発生させることが出来ます」

「おおっ発電機か! それなら使い道があるかもしれない」

 しかしそれなら売らずにうちで使えば光熱費の大幅削減に使えるではないか。

「試してみよう。この部屋の照明や温水器に繋げることは出来るか?」

「出来ました」

「早い」

 成穂の手には既にあの円盤がない。どうやったか知らないが、上手く取り付けることが出来たらしい。

「さてと」

 腰を上げて部屋の中央にある電灯の紐を引く。

 カチリと音がした。確かに聞いたと、思う。

 

「何も変わらないな」

 部屋に付いた照明を眺めて呟く。

 上手くいってるのか失敗したのかは、次の請求書を見るまで分からないか。

「まあこのままで様子を見るか。成穂ちゃんもそれでいいかな?」

「わかりました」


 明かりをつけて気づいたが随分暗くなっていた。

「飯でも食べるか……」

「用意します」


 そして出されたご飯一膳、具なし味噌汁。

「「いただきます」」

 なんだか最後の晩餐みたいな雰囲気があるな。

「一口ずつ交互に食べよう」

「わかりました」

 まず俺がもそりとご飯をすくってぱくり。そして味噌汁をすする。

 成穂も同じようにご飯を一口、味噌汁と音もなく――

「おいちょっとそっちの方が一口が多くないか?」

「そんなことはありません」

 いや、どう見ても多い。俺お腹がそう訴えている。

「じゃあ次は先に成穂から食べな」

「それでは」

 成穂の可愛らしい口を凝視する。それはもう米粒の一つすら数えようとするぐらいにだ。

 成穂が箸を止める。

「ん? ん? どうしたんだい? 遠慮しなくていいんだぜっ」

 おっとそんな目で見ても止めないぜ。俺は今、無償に人が食べている様を見たいんだ。

 

 成穂の視線が俺に突き刺さっているのを無視し続けていると。

 世界が縮んだ。


「な、なにをッ‼」

 原因は分かっている。目の前の同居人だ。

 それが巨大になる。いや巨大になっているのではない。俺が、世界が小さくなっているのだ。

 いやそれすらも違う。目の前のちゃぶ台、そして成穂の手の中にあるお茶碗はまったく縮尺が変わっていない。そして小さくなっていると感じている俺自身も、視点が低くなっているということもない。

 感覚では理解できているのに、物理現象がそれに伴っていないという奇妙な現象に混乱している自分を置き去りにして――

 成穂はご飯を一口。口に入れた。

 

 先程の奇妙な感覚は一瞬で消える。目の前には具なし味噌汁をすする成穂。

 

「なにをしたんだ」

「次は主の番ですよ」

 しれっとした成穂は答えることなくそう応えた。

 茶碗の中身を覗く。

 そこには成穂が食べた一口分だけ量の減ったご飯が湯気を上げている。

 

 何も変わっていない?

 俺は茶碗からすくったお米を注意深く眺めながら口に入れた。

「……なんだこれ」

 まるで食べている気がしない。分からない。食べているのに食べていない、そんな奇妙な食感。

 食感なのか? それとも味か? 違いなどない。そう脳は言っているのに、俺は既に今、何を食べたのか分からない。

「あの、成穂さん……このご飯なんだか変なんだけど」

「残りは主に差し上げます。ご馳走様でした」

 そう食器を片付けつつ台所の方へ去っていく。

 

 やられた。何をされたのか分からないが出し抜かれたのだ。

 俺が今食べたのはご飯の抜け殻。そうとしか言いようのないナニかなのだ。

 

「あの……成穂さん?」

「早く食べて下さい片付けますから」

「はい」

 

 教訓。

 成穂さんに食べ物のことでからかわない。

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