第一話 俺氏、金欠になる①
「不味いな」
それはとある日。
町の一角にある小さな郵便局。そのATMの前に迷える子羊が一人佇んでいた。
そう俺である。
手元にはゆうちょの通帳。その最後尾に記されるは現在の預金残高。
「三桁もねえ……」
どうしてだ?
ちょっと考えよう。
俺には趣味なんて大してない。自炊もしているし、最近は成穂が料理を作ってくれたりしている。夜食セットだけじゃないぞ、色々作ってくれるのだ。
仕事のアダルトショップ勤めは最近は給料が伸びてきた。それは何故か。成穂がバイトとして雇われたからだ。
もちろん黒髪、黒目の恰好でである。
あの青髭の店長はあの事件。『成穂たん可愛いから商品買っちゃう事件』の後、正式に成穂にアルバイトしないかと打診していたのだ。
それ以来うちの店は客が途絶えることはない。え、記憶と証拠を消しているのでは、だって? それは問題ではないのだ。
何故ならば、来店したお客さんがあっという間SNSなどで拡散してくれるからだ。
初来店のお客さんも常連のお客さんも、大量に商品を買ってくれるのである。ただ初々しいバイトの子と少しでもお近づきになりたいが為に。
この好景気は、常連の財布が空になるまで続くだろう。
だからまあ思うところはあるが、店の仕事はしばらく安泰である。
残業時間が倍になったけどね。
しかし今、財布は空である。
「やっぱりあれか……」
宇宙食は高かった、高かったぞー。
あの宇宙旅行の時に大人買いしたのがやはり不味かった。
始めはそこまで困窮してはいなかったのだ。
だが月々の支払いを引いていくうちに、あれおかしいな、ちょっと少ないな。なんて思い始めたのだ。
そして、気付いた時には遅かった。
俺は後10日を61円でやり過ごさなければならないのだ。
「ってま~そんなに心配してないけどねー」
俺は鼻歌を歌いながら帰路につく。秘中の秘が帰りを今か今かと待っているのだ。
でもまあ道端に生えている草を品定めしてしまうのは過去の教訓からである。
「よし、始めが肝心だな」
アパートの扉の前で一呼吸。
いくぞ。
「ナルほも~ん! 助けてよ~」
「お帰りなさいませ」
完璧だ。頭の二文字を片仮名にするというこだわりがにくいね。
「あ、……お邪魔してます」
「あ、どうも汚いところですが」
先客が居ました。由紀ちゃんとそのお友達一行だ。
「ちょっと帰ってくるなんて聞いてないよ!」
「おかしいな……普段はは日が暮れてからだった気がするけど」
「どうしよう……犯されちゃう」
怒っているのがポニーテールのきつそうな子。失礼な心配をしているのはゆるふわヘアーを編み込んだおっとり眼鏡。
ちなみに我らが由紀ちゃんはボブカットのはつらつ系。そしてみんな可愛いです。
しかし、の○太ばりの駆け込みを披露したのは不味かった。
ちゃぶ台を囲んだキャッキャウフフな女子会は一転。その場は戦場と化す。
腰をわずかに上げて臨戦態勢のポニ子はちゃぶ台の上の果物ナイフをそっと手繰り寄せると俺の視界から隠す。不味いですよ俺!
眼鏡っ子は慌てて鞄を抱えるとぶら提げられていた防犯ブザーを掴む。不味いですよ俺!
そして由紀ちゃんは携帯しているであろうスタンガンの動作確認をしている。不味いですよ俺!
「ああ、そのね……今日は金がなくてじゃなくてね。早く仕事が終わったんでね」
なにを言い訳しているのだろう。ここは俺の部屋だというのに……だがこんな鬼気迫る状況では。
「なんかごえんなさい……」
泣いていない泣いてなんかいないんだからね。




