第四話 俺氏、絶望と歓喜と夜食と②
「……」
目が覚めた。真っ暗だ。
俺はどこかに横たわっている。
ここは何処だ? 何時だ?
混乱していた俺に、無情にも先程の記憶がよみがえる。
……いやそんなものに意味はない。
もう24時間も365日も存在しないのだ。日の出も日の入りも、太陽さえ存在しないのだから。
何時までも目覚めなければよかった。ずっと何も分からないままであれば、どんなに楽だったか――
「うっぐっぅ」
嗚咽が漏れる。
そうだ。チャッピーはチャッピーは何処に居る? あいつは俺にとって、そしてあいつにとっても唯一の生きた相棒なのだ。
あの宇宙人が住まうこの宇宙船という牢獄の中の。
「ちゃっぴぃ~」
手探りであの温もりを探す。もう俺にはあいつしかいない。
もう目を開いているのか閉じているのか分からない。這うようにもがき、周囲に手を伸ばす。
ピンポーン
聞きなれた音が聞こえる。幻聴か。俺は壊れてしまったのか。
「おじさーん。居るんでしょお? おじさーん」
「真っ暗だし、まだ帰っていないのかしら?」
幻聴が聞こえる。この声は相沢……そうか。
それの意味するところが解る。
チャッピーへの罪悪感。そして奪われるという恐怖。
「あ、開いているよ。帰ってきてるよやっぱり」
「あらあら勝手に――」
ガチャリ
「おじさーん。帰ってきてるの~?」
忌々しい幻聴め……俺の、俺の――
「わん」
「チャッピーはわだざんッッ!!!」
「キャーーー‼」
バチン
俺の意識は再び途絶えた。
*
「わん」
「あ、起きた」
その声に目を見開く。
「ぐわあぁ!」
目が痛え。
蛍光灯の明かりが直撃したのだ。
目を抑えてもんどりを打つ。俺はどれぐらい眠っていたんだ。
「はーびっくりした。前科一犯になるかと思った」
「こらっ由紀。ちゃんと謝りなさい!」
「だってこいつが急に飛びかかって来たんだし……」
目をゆっくり開ける。
そこには、
「わん」
「チャッピーぃぃ‼ お前だけだお前だけなんだ!」
目の前に居た相棒に抱き着く。お前だけだ、もうお前だけなんだ。絶対に離さないからね。
「うわっきも」
「こら由紀ちゃん!」
「主は夢を見ていたようです」
外野がうるさいな。
「なんだよ俺は今地球最後の――」
そこに居たのは奇妙な、いや少し距離を離したがっている顔の相沢親子と、鉄面皮の宇宙人。
相棒との再会に涙する一人と一匹を不気味そうに見つめていました。
「お疲れで寝ていた所にすみませんでした」
「いえいえこちちらこそ、寝ぼけたままで済みません」
「私を襲ったの。成穂お姉さまに免じて、寝ぼけていたってことにしといてあげる」
「こらっ由紀ちゃん!」
俺が寝ていた時に何かあったらしいが、よく覚えていない。あれ? なんだか体からイオン臭がするぞ。
「本当にチャッピーの面倒を見てくれてありがとうございました。チャッピー、ほらおじさんにお礼を言いなさい」
「わん」
「まあいい子ね」
奥さんそれお礼じゃありませんよ。
「まあいいわ。はいこれ、お土産」
「あ、ああ……ありがとう」
渡されたのはよくある旅行客用のお土産饅頭だった。
確かに重みがある。幻ではない。
「本当に大丈夫なの? 顔色真っ青だけど」
「ちょっと車酔いかもね」
顔を覗き込もうとしてくる由紀ちゃんの影に気づいて、慌てて適当な誤魔化しを口走った。
「あっそ」
それでもう終わりとばかりに由紀ちゃんは成穂の方へすり寄っていった。少し寂しい。
「お姉さま! これ私が選んだお土産です。一人で召し上がってください!」
「ありがとうございます」
太陽系を破壊したはずの宇宙人は、その破壊したはずの人間にお土産を貰っている。
その表情からは何も読み取れない。
あれは夢だったのだろうか。
「それでは私達はお暇致します、ほら由紀ちゃん」
「名残惜しいですがお姉さま、おやすみなさい。また来ますね」
少しぼおっとしていたらしい。相沢親子は帰ろうとしていた。
お土産を貰っておいて、流石に何か返さないと失礼だ。
なにか宇宙船から持ってきていただろうか?
「あ、ちょっと待ってください。これお土産です」




