第四話 俺氏、絶望と歓喜と夜食と①
そして、その時がやってきた。
「次は太陽系、太陽系です。お降りの際は焦らず、完全に止まってからシートベルトをお外しください」
冗談なのかそうでないのか。
何時ものように成穂のアナウンスが何処からともなく流れる。
「よーしチャッピー行くぞ」
「わん」
ここは艦橋の艦長席。
俺達は意気揚々とその瞬間を待ち続ける。
もちろん服は着たぜ。地球に失礼だからな。
目の前の窓の向こうは相変わらずの漆黒であったが、終着点である地球くらいは見えるだろうと、その時間までこうして一人と一匹で待っていたというわけだ。
俺はこの時の衝撃を一生忘れない。
「見えッ――」
衝撃が走った。実際にはピクリとも揺れてはいない。この場合の衝撃とは精神的なショックという意味だ。
窓一杯に地球が映し出された、そう思った瞬間。
地球がベロリとめくれた。
いやめくれたと言うよりひしゃげた。と言った方が正しい。
地表の青は既にどこかへ消し飛び、地殻は赤々と赤熱したまま歪み続けている。形は既に球体ではなく、まるで紐の様に伸びて、弧を描くようにとぐろを巻いた。
「……」
声が出なかった。胸に抱えたチャッピーも、その温かさだけを返す。
「どういうことだ」
どれぐらい放心していたのだろう。その声は他人の様にかすれて聞こえた。
「やはり失敗しました」
「どういうことだよ!」
チャッピーをきつく抱きしめる。その身体が震えているのが分かった。事態に怯えているのか、俺自身に怯えているのか。それは分からない。
もしかしたら自分が震えていたのかもしれない。
「この船の航法ではこの界面領域において、致命的な損壊を招く可能性がありました」
「そ、それはどう――」
「この航宙の機会に様々なデータを収集することが出来ました」
「え……」
「存在を最小にしましたが、それでも余波でこの世界は崩れる。それぐらい主の済む領域は小さいということです」
存在を最小?
「最寄りのボイドから此処までの間に、約1000の銀河が消滅しました」
あ、あああ……。
「超々低速で侵入した天の川銀河。主の住む地球の存在する銀河ですが、ごく浅い宙域であったにも関わらず約16億の恒星が消滅しました」
ななんで、み、見えなかっ――
「光速を超える速度では、主には外の風景を観察できないということです。今後、要検討です」
あああ、あああ……俺は馬鹿だ。何も考えず宇宙船を貰って、はしゃいで……。
顔が涙でぐしゃぐしゃだ。何も見えない。何も考えられない。
「わん」
頬に温もりを感じる。慰めてくれるのか、チャッピー。
もう一人と一匹になってしまったよ。お前のご主人様になんて謝れば……いや地球上の全ての生命になんだ。
俺が全てを壊したのだ。
「これで地球一周クルーズは終了です。またのご利用をお待ちしております」
そこで意識は途絶えた。




