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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第三章 宇宙船で宇宙旅行か?
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第二話   俺氏、宇宙でアトラクション①

「新しい朝が来た。希望の朝だ」

 体調良好、準備万端。パンパンに宇宙食を詰め込んだリュックの重さが頼もしい。まあドッグフードの重さも追加されているのは蛇足だが。

 

「早速だが成瀬隊員、案内してくれ」

「わん」

「それではこちらへ」

 そう指し示すは部屋の押入れ。

 きっとあの襖を開けると宇宙船に繋がっているのだろう。

 しかし、

「あのさぁ君さあ」

「成穂です」

「わん」

「……成穂隊員さあ、もっとこう……ないの?」

「ありません」

「簡潔! じゃなくてさあ……」

 わかるだろ? 言いたいこと。あるだろ? やりたいこと。

 俺達は名誉ある初宇宙旅行の初期メンバーなのだ。本来なら拍手喝采、花吹雪のパレードで見送られて然るべきの立場の筈だ。

 それを、俺目立ちたくないしー世間体ってもんがあるしーな感じでこっそり行ってやろうと言うのだ。

 それなのに……

「ないわー押入れとかないわー」

「おっしゃる意味が解りません」

 おおっとやばい、成穂さんが若干切れ気味なのが分かる。奇麗な目で切れ気味って怖いんだな。初めて知りました。

「いえね……ちょっとばかし外連味というかね、宇宙船に乗るんだーみたいなものが欲しいと言いますかすみません」

 俺は折れた。

 

「わん」

 おい止めろチャッピー。被害にあうのは俺なんだぞ。

「わかりました」

 成穂はチャッピーの言葉に応じて前に進み出る。おい、俺の発言は犬以下か。

 

 成穂が閉まった押入れに手をかざす。すると――

「おお凄い!」

 なんと押入れが一瞬で鉄の扉へと変わったのだ。

 それだけではない。きっと気圧ハッチなのだろう。扉のふちに伸びた機構に連動しているのであろう、大きなバルブが中央に取り付けられている。

 

「これだよこれ、この感じだよ」

「わん」

 わかったから。話進めるから。

 さっそくバルブを掴んで回してみる。

「お、思ったよりも軽いな」

 回す続けると扉の中の仕組みがガチリガチリと動いてるのが何となく感じられた。

「よし、開けるぞ」

「どうぞ」

「わん」


 よし。今度こそ宇宙旅行に出発だ!

 

 *

 

 押入れの中に一歩踏み込むと、そこは見慣れた白い通路だった。

「見取り図です」

 渡された紙(何故か紙)を受け取る。

「いいね、いいね。コンパクトにまとまってるね」


 実はこの宇宙旅行をするにあたって、成穂に再三お願いしいていたのだ。

 宇宙船全体を使うな。もう少し居住空間をまとめてくれと。

 その願いは聞き入れられた。「宙空界面機動艦です」と返された時はどうなることかと思ったが、彼女はやってくれたのだ。

 

「ふむふむ、リビング、ダイニング、キッチン、バスルーム、トイレ……おいチャッピーの個室まであるぞ」

 他にはベッドルームやリラクゼーションルームとか言う訳の分からない部屋もあった。サウナかな?

「この星の客船を参考にしました」

「ありがとう、本当にありがとう」

 

 その思いは部屋を子供のように見回る度に溢れていった。

「すげー泡風呂だぜ」

「わん」

「ふかふかのベッドー」

「わん」

「おービリヤード台だ。やったことないな~」

「わん」

「おいおいおいでかいプールがあるぞ」

「わん」

 成穂が参考にした客船とは、間違いなく豪華客船だったのだ。

「うわぁ……この食堂、バイキング方式じゃん。なにこれ出来立て? 冷めてないぞ……」

「わん」

「おいこらチャッピー! 待て、まーて!」

 数々のご馳走を前に野生を取り戻した畜生を担ぎ上げる羽目になった。間の抜けた顔に鳴き声で忘れていたが、チャッピーはぴちぴちの若人ならぬ若犬わこういぬだ。食い気も凄まじい。

 

 だがメインディッシュが待っている。それまでは全てお預けだ。

 それは、

 

「ここか……」

「わん」

 俺達(一人と一匹)が立つ通路の目の前には一つの重厚な扉があった。

 重厚とは言っても木材でも押入れの扉のようなものではない。

 SFでよく見るよく分からない機構でシュっと開くあの扉だ。

 今までの物も同じような扉であったが、これはそれらよりも一回りも二回りもでかい。

 それもそのはず。

「ここが艦橋か」

「わん」

 飯は後だって言ってるだろこの犬。今は漢の夢の実現目の前なんだって。

 

 一呼吸。よし。

「入るぞ」

「わん」


「すげえ……」

 そこは正しくSFの世界だった。

 映画で見たあのスペースシップ、あの小説の、あの漫画の。それらのどれよりも素晴らしいザ・SFだった。

「かっこいい」

「わん」

 感想がそれしか出てこない。

 

 それは端的に表すと金属でできた巨大な講義室のようだった。机が人が三人でもすれ違えるような間隔で設置され、そのどれもが用途不明のスイッチやモニターで覆われている。

 モニターには様々な図形や文字が所せましと走っている。それ一つ一つにおそらく意味があるのだろう。

 目線を前方に向けるとそこには半透明の巨大なガラスが浮かんでいる。そこに星図らしい地図が描かれていた。

「まさに宇宙船だな」

「わん」


 実は今の今まで疑っていた。成穂に連れられて度々訪れているココが宇宙船であることに。

 それは仕方がないだろう。初めに拉致されて見た光景は、まさに裏世界と呼ぶに相応しい、狂気に満ちた世界。

 次に訪れた時は部屋と永遠に続く廊下の世界。

 宇宙船の中だと言われるより、異世界に行っていたと言われたほうが納得がいくような場所だったのだ。

「俺は異世界転生していたのか……」

「わん」

 タグ付けなきゃと思っていたが、そうではなかった。

「ここは正しく宇宙船だ」

「わん」

 俺は感涙した。あと犬がうるさかった。

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