第一話 俺氏、旅行を計画する②
「ガスの元栓よし、戸締りよしと
俺はその間に済ませることを全て済ませた。そして玄関の鍵を閉める。
こうして人類初の単独宇宙旅行の準備が完了したのである。
物語は三日前に戻る。
まず初めに、俺は勤め先のアダルトショップのオーナー、通称店長に休暇を願い出た。
もちろん彼とも顔馴染みの成穂を引き合いに出してである。
結果思惑通りにいく。
「あら成穂ちゃんが行きたがっているんじゃあ仕方ないわね~いいわよ」
よっしゃちょろい!
「もし成穂ちゃんに手を出したら……奪うから」
破壊力がやばかった。無拍子の動きで接近した直後にあの台詞。
今だ頬に店長のじょりじょり顎の感覚が残っている……俺、ナニを奪われるんだろう……。
まいいや。この旅行で俺は成穂と急接近。彼女の方から「好きっ抱いて」って言われる予定なのだ。
つまりあっちから襲ってくるって寸法なのでノーカン、ノーカンだ。
だから俺はナニも奪われない。そう信じる。
次にするのが食糧の買い込みだ。
俺は宇宙食を買い漁った。
フリーズドライ製法だとか、チューブ式飲料、水を入れるだけで暖められるパック飯。気になったものは手あたり次第買いまくった。
まあ財布の方は重力があっても飛べるんじゃないかというくらい軽くなったが……高すぎだろう宇宙食。そりゃあ宇宙飛行士が高給取りなわけだ。
と、ここまでは順調だったがこの後予期せぬトラブルが起きた。
「ええっおじさんも旅行なの!」
「あらあらどうしましょう?」
玄関前で困り顔で声を上げるは相沢親子である。
コンビニチャッピー事件以来、何度か(俺の中で)話題となっているこの二人は、俺に頼みごとがあるとやってきたのだ。
「わん」
頼み事とはこいつのことだ。
表情の読めない馬鹿犬、チャッピー。御年10か月のヤングガイ。
なんかの雑種らしいが知らん。
え、なに成穂さん? 柴犬とシベリア超特急の混血?
そんなことは言ってない? いいよ興味ないし。
「家族で旅行に行っている間、預かってもらおうと思って……まさか同じ日に旅行に出かけるなんて」
「わん」
頬に手を当て溜息を吐くのは相沢の奥さん。色気が凄い。
「成穂お姉さまと親睦旅行⁉ 私もそっちがよかった~」
由紀ちゃんは成穂に頻繁に会いに来ているらしい。らしいというのは俺が家に居ない時に限って訪れているからだ。
以前俺が仕事から帰ってくると、家の前で鉢合わせたことがあった。
その時「挨拶も出来ずにお邪魔してごめんなさい」と頭を下げてくれたのだ。
何という出来た子なのだろう。
最近は友達も連れて、家に遊びに来ているらしく、部屋に入るといい匂いがするのだ。ちなみに成穂は無臭である。
俺も中学生に囲まれてキャッキャウフフに参加したいのだが、運悪く今までその機会に遭遇出来ていないのである。
今度俺が休日の時に訪ねてくるように話してみるつもりだ。
「成穂お姉さま、これを私だと思って旅行中は片時も離さないでくださいね」
「わん」
そう言って由紀ちゃんが成穂に手渡したのは防犯ブザーだった。
いい子や~。なんて友達想いなんだろう。
そうだね、旅行は知らない土地にいくから危ないよね。でも大丈夫。行くのは宇宙なんだ。それに男である俺も居るからね。
俺が成穂を守る(但しあちらから襲ってきた場合は無抵抗になります)
「じゃあどうしようかしら……親戚も遠いですし、知り合いもペットが駄目な方が多くて……」
奥さん流し目は卑怯ですよ。あと小指を唇に当てる仕草も危険域です。
ああ……このままではあの素敵な泣きぼくろが濡れてしまうではないか。
ここは漢を見せなければ。
「大丈夫です。俺がチャッピーの面倒見ますよ」
「ええっ……でも本当にいいんですか? その、ご迷惑じゃあ……?」
「問題ありませんよ。旅行に連れて行きますから。もちろんそれでいいのなら、ですけど」
「わん」
チャッピーうるさい。
「もちろん有難い申し出ですが、本当にいいのでしょうか?」
「大丈夫ですよ。旅行と言ってもレンタカーでちょっと近場を回るだけですから。ペット同伴可のところです」
まあだいたいあってる。うちの宇宙船はペット搭乗可です。
「わん」
ということで我が宇宙船の初飛行にイヌが追加されました。
「早まったか……」
とほほ、人類初のやっとこさ宇宙旅行に畜生が追加されるとは……。
いやそれは違うな。
人類史上、初めて宇宙を漂ったのは、ライカという雌犬だった。
つまりチャッピーにも宇宙という広大な開拓地を、人類と共に挑戦したという、名誉ある称号がその血に受け継がれているのだ。
親類のおじさんの友達の兄弟の知り合い、ぐらいには。
「よし、今日からお前は名誉宇宙飛行犬だ」
「わん」
「お前は全ての犬を代表して、この宇宙旅行に付いてくることになる。その意味を胸に刻むようにな」
「わん」
分かってんのかこいつは……。
あ、駄目だ。飯の事しか考えてねえわこれ。
こうして人間一名、宇宙人一名、犬一匹の壮大なる宇宙旅行の幕が切って落とされたのである。
「主。個体名由紀に渡されたこれは意味があるのでしょうか」
「ああスタンガンだね、意味はあるね大いにね。こっち向けないでね」
なんていい子なんだ由紀ちゃん。
出発は明日の朝。
その夜は二人と一匹で飯食って寝ました。




