第四話 俺氏、宇宙船でお夜食を③
しばし打ちひしがれています。このままお待ちください。
あー駄目だー死ぬわ俺ー成穂さんを信じた俺が馬鹿だったわー。おかしいと思ってたんだよなー通路の先が点なんだもん消失点っていうのあれ? 室内で初めて見たわー。それになんだよそれー三千年って第三ミレニアム? ミレニアムファ○コン号と掛けてるの? 宇宙船だけに?
「宙空界面機動艦です」
……いやまてよ。少し不思議な宇宙船ならあるんじゃないか? そうアレが。
「成穂さん、聞きたいのですけれど、ワープ装置と言いますか、こう短縮できる方法みたいなものはありますでしょうか?」
「あります」
簡潔!
やった! きっと下手に出たのがよかったんだ!
ふっふっふ小娘め、汚い大人の策略に嵌りおったわ。
「えーとそれじゃあその、ワープ装置? 的なもので台所まで案内してもらえませんかねえ。いや無理にと――」
「出来ません」
な……なんだと。
こ、こんなことは予想していなかった。まさか成穂が出来ない、そう答えるとは。
どうする? やはり引き返すしかないだろう。骨折り損のくたびれ儲けではあるが、三千とちょっとを歩くわけにもいくまい。
問題は成穂君さんがどう動くかということだが……。
「それじゃあ仕方ない、一度戻ろうか。三千年も歩き続けるわけにもいかないしね」
最後はてへぺろを付けてみた。これなら若いおなごもいちころだろう。
「……」
ぐう……沈黙を返してくるとはやるな。おじさんは若いおなごの困った表情に弱いんだよなあ。
ん? 困った表情だって?
「んん~?」
そう見える、ような気も? しなくはないような、そうでないような……。
鉄仮面でも被ってるのかというくらい表情が動かないが、しかし直感が感じたことに今回は賭けてみよう。
「成穂君、不満は言わなければ解決しませんよ」
どうだ? ダンディなおじさんの助言風だぞ。
俺は宇宙人の考えなど読めない。だからきっと複雑な事情があるのだと、そう思っていた。
しかしそれは杞憂だった。
その言葉は意外ながらも、なんだか安心してしまう。そんな答えが返ってきたのである。
「不満個所の洗い出しに協力願います」
「そういうことだったのか……」
彼女は何ということはない。
台所まで向かうついでに、この船を見学させたかったのだ。
通路での俺の行動と、成穂の対応を思い返してみる。
俺は興味の赴くまま、そこらじゅうを弄り倒し、部屋という部屋に頭を突っ込んでいた。まあはしゃいでいたのだ。
それに成穂は不満を言うこともなく従っていた。
ここは何の部屋だ、これはなんだ、ここ開けてくれ、お尻触らせてください。
等々騒ぎに騒いだが、成穂はすべて応えてくれた。嘘ですお尻触らせては例外でした無視されました。
それは彼女がこの船を俺に見せたいがためだったのである。
「ふう」
俺は軽く溜息を吐いた。
何時の間にか成穂は振り返り、こちらを見つめている。
その目は不安に揺れている、様に見えた。
俺はポンと成穂の頭に手を置き撫でる。自然に、出来るだけ自然にだ。今が好感度をオーバーリミットするチャンスなのだ。
きょどって手が震えていることをばれてはならない。
「あひがとう……俺の我がままの為に頑張ってくれたんだもんな」
よし、声が裏返ったがまだ挽回出来るぞ。
「でもさお腹空いただろう? 夜食セット作ってやるからさ。散策はまた今度にしようぜ」
ここでウインク。
決まった。ちょっと引き攣ってしまったが及第点だ。
自分自身が恐ろしい。こんな土壇場で新たな才能を開花させてしまうとは……。
「了解しました、これより台所に向かいます」
よっし簡潔!
「残りの視察は後日にしましょう」
そう言うと成穂は踵を返し、壁に向かって歩き出す。
彼女の目の前には扉があった。音もなく開く。
後ろから覗くとそこは間違いなく台所だった。それも途轍もなく広い。
「さあどうぞ艦長」
彼女なりの冗談だったんだろう。そう促した彼女は笑って見えた。
追記。
後何年ぐらいで視察が終わるのかと聞いてみると、三千三百とんで二年一一か月二三日と一二時間ぐらいらしいです。
この宇宙船ってどれぐらいの大きさなんだ?




