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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第二章 宇宙船は便利なのか?
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第四話  俺氏、宇宙船でお夜食を②

 急にこの部屋の調度品が、壁が床が不気味なものに思えてくる。

  ……この座っているソファの材質は何なのだろう。

「それは――」

「ストップ」

 簡潔に、だ。簡潔に。

 今は一秒が惜しい。

 パチっと薪のはぜる音だけが、室内に響く。

 ちらりとアパートの扉がある方を確認する。漆黒のナニかが広がる掃き出し窓にある脱出口だ。

 結構のんびりしていたせいだろう。

 奥に見える窓からは西日が差し込み、四畳半を赤く染めていた。

 すぐにでも駆け込みたい。

 しかし横にはお盆を抱えて佇む宇宙人が側にいる。

 ……どうするべきか。

 

「あーお腹が空いたなあ」

 よし、なにも不自然ではない。夕飯時に適した話題変化だ。

「それではキッチンへ案内します」

 成穂は食堂ではなくキッチンへ案内すると言った。何故だ? 警戒されている? 違う、夜食セットだ。

 彼女は夜食セットをご所望なのだ。

「あーそれなら家の台所で作るから。あれだよ慣れた道具と環境の方が美味しく出来そうだからさ」

「……」

 お、言いよどんだぞ。これで納得してくれるだろうか?

「再構築しました。主が使っていた間取り、道具を揃えています。それでは参りましょう」

 のーぅ。違うちがうんだよ、成穂さん。

 っていうか何を考えてるのか読めるんだよね、今も筒抜けなんですよね。なんで、なんで無視するの?

「主に改装後の艦内を評価して貰わねば手直し出来ません」

 あーなるほどそういうことか。

 なんでも出来ちゃう成穂ちゃんが一週間掛けたってことは、それはかなり気合入れた力作だろう。

 なんだか申し訳なくなってきたぞ。

 

 これまでの成穂の行動を顧みる。

 色々とすれ違いはあれど、俺のことを考えて行動してくれていた。

 突然引き渡されて主を鞍替えされたというのに、文句も言わずこうして頑張ってくれている。

 

 よし、腹をくくったぞ。俺も少し主らしい振る舞いをするべきだ。

「分かった成穂、台所に案内してくれ。ああ我がまま言って悪かった。出来るなら台所は元に戻してくれないかな。君が俺のために用意した場所で料理を作りたいんだ」

「承知いたしました。それでは案内します」

 グッバイ俺の四畳半とガスコンロ一つの台所。お前達とは何時でも会えるから……。

 

 *

 

 応接間のような部屋の奥、重厚なオーク材だろう扉を開ける。先導するのは成穂だ。

「おお……」

 簡単が漏れる。

 

 扉の先は通路だった。それもただの通路ではない。

「やっとSFだ!」

 通路は白い艶のない金属で出来ていた。これぞいわゆる、

「宇宙船の通路だ!」

「宙空界面機動艦す」

 成穂の小言など気にならないぞ。それどころか褒めたい、褒め称えたい。

 もう腸内のような肉々しい、直径10メートルのミミズがのたくったような通路とはおさらばだ。

 俺はこういうのを待っていたのだ。これぞ宇宙船、これぞホワ○トベースだ。

「こちらです」

「ああ、頼む」

 歩く度にカツカツと心地よい音が足音から聞こえる。ぶよぶよした所もない、ざらっともしていない。感激である。

「ふふふ、成穂隊員。月は出ているか?」

 なんて艦長気分を出してみる。

「出ていません」

 簡潔!

 出も気にしない。気分は艦長なのだから。無駄に部下を叱責するのは死亡フラグだしね。

「そうか、新月だったか」

 せめて窓でもあればと思ったが、続く通路にはそういったものは見当たらない。

 残念だと思ったが、窓から見た景色が、あの最初の部屋の窓から見えた漆黒だったらと思い直した。

 怖いよ、あの景色は。

 

「ちなみにこの船は今どこにあるのかね」

「ここにあります」

 違うよ君ぃ、そういうことを言っているんじゃあないんだ。


 まあいいか。俺は意気揚々と手を後ろ手に組み足音を響かせた。

 

 *

 

 おかしい。俺は一体どれぐらい歩いたのだろう。

 

 通路の様子は全く変わらない。時折壁に、非常灯が付いた小箱が張り付けてあったり、スライド式らしい扉が並んでいたりするが、一向に変わらない。

 

 さっき興味を惹かれて扉を開けて貰ったところ、SFチックな内装の部屋だった。ベッドにテーブル、シャワー室に簡易的なキッチンまで装備された素晴らしい部屋だった。

 

 そんな感動が消えうせるほど歩いている。もう時間の感覚がない。

 三十分は歩いただろうか。いや三時間かもしれない。

 全く歩調の変わらない前方を歩く少女の背中が恐ろしく見えてきた。

 しかしそうも言っていられない。我慢の限界である。


「あー成穂君」

「なんでしょうか」

 返事はするが後ろを振り向きもしない。

 いや。もし振り向いた時笑っていたら。いいや全く別の顔だったら。顔すらなかったら。

 怖い考えを振り切れない。想像をしてしまう。

 一度怖い妄想をすると止まらなくなるってあるよね。今それなんだ。

 

 カツカツと二人の足音だけが響く。

 駄目だ、しっかりしろ俺。なんとか話を続けるんだ。

「あー我々はどれくらい歩いたのかなと思ってね。いや大し――」

「時間に意味はありません」

 哲学!

「ど、どういう意味だおるぉ?」

 かんだ。

「この艦は今、界面境界の境を超えた場所に停泊しています」

「あーそっかー」

 わからんわい。いや落ち着け、少し不思議少し不思議。SFは魔法の言葉、なんとでもどうとでもなるさ。

「時間は気にしなくてもいいと、そういうことだな。浦島太郎にはならないよな」

「はい」

 よし簡潔!

「では台所まで後どれくらいかかるのかな?」

「およそ三千三百とんで三年です」

「死ぬわっ‼」

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