第三話 俺氏、帰宅時に買い物を②
「夜食セットを所望いたします」
「お、おう」
帰り道。冷蔵庫が空であったことを思い出し、少し道を変更。
近所のスーパーへと辿り着いた所である。
成穂に「なにか食いたいものはあるか」と格好よく振り返りながら尋ねた時の応えがこれだった。
「夜食セットってチャッピーと一緒に食べたあれか?」
「そのとうりです」
どうやら彼女は、犬畜生におにぎり一個と卵焼き一つを奪われた時の様子を見ていたらしい。
ああ思い出しただけでその悔しさに涎が溢れてくる。
あの時が歴史上初めて、霊長類であるサル目ヒト科俺が、犬であるイヌ目イヌ科チャッピーとの討論に負けた日なのである。
俺は人類に大いなる汚点を残してしまったのだ。
「そんな体逸れたことは話していませんでした」
「ごめんね、独りで盛り上がっちゃって」
しかし犬と会話したのは事実だ。俺は何時の間にか犬と会話するという能力を得ていたのだ。なんだその狭っまい能力。
しかもその能力をもってしても奴には勝てなかった。
……っく、しょうがなかったんだ。だってあいつが由紀ちゃんの――おっとここからは男と男の秘密ってやつだぜ。
「どうすれば犬がそんなことを頼めるのですか」
「あ」
しまったそうだ。くそ嵌められた。
なにが交換日記頼んであげるだよ。人語喋れないじゃないか、どうやって頼むんだよ。
ふう、しょせんは一歳児か。
「というわけで夜食セットを所望いたします」
というわけでになった。
*
ポポイと必要なものをカゴに入れていく。あ、トイレットペーパー安いな。
「なにか買うものはあるか?」
「ありません」
簡潔!
「しかし夜食セットに必要な材料はお願いします」
「おう分かった」
「必要ならばこちらで用意も出来ます」
「それは止めておきます」
用意ってなんだ……あの宇宙船にお米とウインナーと卵があるっているのか? あの宇宙船に? うんやっぱり絶対止めておこう。もしもお米が一粒一粒喋りだしたりなんかしたら、そりゃあもうああ宇宙産だなって、納得出来ても発狂ものだ。
「えーと、ウインナーと卵だな」
これだけ買えば二人でも三日は持つだろう。
……待てよ、二人? もしかしなくても今の状況とは、あれなのではないだろうか。
「あああのさあぅつ……お前用の歯ブラシなんかも買った方がいいよなあそうだよなあこれあれだもんなあ」
「成穂です」
「そうそうそう成穂さんねそのねあれだもんねその同せ、ごほんごほんあれのね、初日だし? 色々ね?」
「必要ありません」
簡潔!
「いやいや必要でしょう、宇宙人も歯が命だし……パジャマとかワイシャツ⁉ もしかしてワイシャツ⁉」
部屋とワイシャツと俺なのか。そういうことなのか。そうなのか。
「私が今現在利用しているこの……『直掩機』の補修に必要な備品は、すべて艦の備蓄で賄えます」
「実家からの持ち出し? そんな~それは悪いよ~。ここは俺の顔を立たせると思って、ね?」
ああ言ってから思い出した。俺今無一文だった。
「まあ、成穂がそう言うんなら仕方ないな、うん仕方がない」
また今度、また今度だ。
俺はしたいのだ。初めての同棲でお揃いの歯ブラシを買ったり枕を買ったり、恥ずかしがりながらもどんな下着がいいの? とか聞かれたりとかしたいのだ。
ああ、それにつけても金のなさよ。
「お買い上げありがとうねー」
地元スーパーでありがちなフレンドリーさで見送られる。
支払いはもちろん成穂様のポケットマネーでした。
「サンプルに」と一種類ずつ消した後、封筒ごと俺に渡してくれたのです。
しかしその消したお金はどこに消えて、何に使うのだろうか。
もしかしたら偽造するつもりなのだろうか……いけない、いけないよ宇宙人さん。そんなことはおじさんが許せないよ。でも出来た時は確認させてね。




