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魔族溺愛症の魔王様は、お嬢様の下僕になりました!  作者: 亜桜蝶々
三章・共生都市国と忍び寄る影
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更なる事件につき首相は胃を痛めました

 魔王城の廊下を一緒に歩くのはクロノスとライアー、そしてナターシャ。目的地への道順が途中まで同じであるためであった。実際にはナターシャとクロノスが前を歩き、ライアーがその後ろを歩いているが。


「あたいは仕事をしつつ商人ギルド長とかと話をしとく。ライアーはどうするんだい?」

「そうなると必然的にわいは外交官や国境警備兵とか相手に、情報を聞き出すことになるんじゃないかな。どうするんだって、選択権無いよねこれ。少々理不尽なような気が」


 ナターシャの言葉に思わずツッコミを入れるライアー。ナターシャは背後でピョコンピョコンと跳ねるようにして移動するライアーを、振り返ってジッと見たあと腕を組みながらさも当然というように言った。頭部の蛇達も不思議そうに首を傾げた。


「だって、あんたおとこ……オスだろ?」

「……それを言うならわいよりナターシャの方が年うむぐっ!」


 ライアーが口走ろうとしたことに即座に反応し、口元を塞ぐナターシャ。特異な魔力の籠った瞳に怒りが混じっているのと同じように、黒い髪に混じった様々な色の蛇達は一斉に鎌首をもたげて威嚇するような行動を取った。一方ライアーは動物の本能のようなものか、体を伏せたあとに耳を下ろしてジリジリと後退をするような仕草をとる。


「レディの年齢を軽々しく口に出すもんじゃないよ」

「んんんんん! んんんんんんんんんん!」

「とりあえず二人とも落ち着くでありやすよ」


 間に割って入り、ナターシャの手をライアーの口元から離させるクロノス。普段から基本的に淡々としている彼の言葉にハッとするナターシャ。頭部の蛇の頭を指でつまんで指の腹で撫でたりしたあと、バツが悪そうにライアーに向かって謝った。


「あー……ライアー。すまないね。なんだか、苛立っちゃってさ……」

「それはわいもだから……まぁ良いよ。わいも悪かった。ごめん」


 互いに謝りあうと、再び三人は先ほどまでと同じように歩きだし、大雑把な打ち合わせのようなものを始めた。途中ですれ違った侍従や侍女などに礼をされつつ、歩くこと数分。廊下のわかれ道に当たり、ナターシャの仕事場が二人とは別方向であるためクロノスとライアーが二人で廊下を歩く。


「ウェイマルシュ……って、ルグリウスさま「あんなやつに様なんてつける必要はないでありやすよ」……相も変わらず嫌ってるね」

「魔王様に立てつくような輩に、敬礼を出来るような度量は持ち合わせてないでありやす」


 真面目な顔のまま、妙に過激なことを口にするクロノス。そんな同僚に対して溜息をつきながらナターシャは確認作業を続ける。


「はぁ……まぁ良いけど、そのウェイマルシュって組織は黒骸軍傘下なんだよね?」

「うむ。まぁ今回の被告の最後の台詞……を含めると、そうと決めつけるわけにもいかなくなりやしたがね……」


 二人が歩きながら話をしていると、前方から何か小走りで移動してくる者がいた。


「ん? 秘書君?」

「ら、ライアー様…!それにクロノス様も……こ、ここにいらっしゃいましたか……」


 ライアーが秘書と呼んだ人物は、軽く息を荒くしながら、


「魔王城内を走るもんじゃないよ。咎めはしないけど……それで、そんなに焦ってどうしたんだい」

「す、すいません……それよりも、ゔ、ヴィクティム候が何者かに、お屋敷にて殺害されました」


 秘書が語った。ライアーは驚嘆し、クロノスは悲嘆とも怒りとも呆れとも言えない表情をした。


「ヴィクティム侯爵が!?」

「立て続けに……組織的なものでありやすかね。あとライアー、今なんて言ったでありやすか」


 気が動転して早口になってライアーの言葉を、聞き返すクロノス。が、そんな言葉に気も配らず秘書は言葉をつづけた。


「しかも家族から始まり、護衛や使用人までもその日屋敷にいた者たち全員が……」

「……今すぐ警察大館へと向かうでありやす。ライアー、たぶん大変だろうから犯人などが解ったら追って連絡するでありやすよ」

「うん。ありがとう……くあぁ……」


 小走りで走り去るクロノスの背を見送ったあと、よたよたと千鳥足のようになるライアー。おおきく体が傾いだのと同時に床に倒れようとしたのを慌てて秘書が両手で支えた。そんな秘書が上司の対応をどうしたら良いのかと困っているのも気にせず、そのまま怠そうにひとりごちた。


「いつもの院会にマーキュリーのことだけでもいっぱいいっぱいなのに……よりによってヴィクティム候かよ……」


 ◆◇◆◇


 魔王城の東側にある、壁面から屋根にいたるまで植物に覆われた建物。王都インペリアルの中でも魔王城などに次いで古い建物であるそれは、立法・政務の中心である二両院議事堂である。


 建物の中には二つの巨大な空間と、その他の大小様々な空間が点在している。二つの巨大な空間の一つ、東側に存在するのは平民院。文字通りアランの治める魔族国内の平民達から選挙によって選ばれた者達が、日々新しい法案などを作る為に討論――という名の殴り合い――を繰り広げる場である。

 そしてその反対に位置するのは、貴族院。爵位の低いものから最高位の大公まで、全ての貴族という貴族の家長が参加することの出来る議会である。平民院とは対照的に議会中は整然としているものの、背後では汚いやりとりが横行していると言われる議会が貴族院であった。

 その各々の性質上、やはり平民院議員と貴族院議員は仲が悪いため、それぞれの議会の時間が被らないように調整されている。


「それでは、首相。失礼いたしました」

「はい、お疲れ様でした」


 そんな二両院議事堂の北側にある首相室と呼ばれる部屋。……の目の前にある、昼間には中庭から南向きの日が差し込む大応接室がある。

 二階に位置するその部屋は、巨大な耐火加工のほどこされた頑強な木製の机と、据え付けの棚に飾られた花瓶や絵画などしかない簡素な装いであった。机を見てみると椅子が無いのだが、妙にカラフルな棚を良く見てみればそれは収納された椅子である事がわかる。


 座面に水を溜める場所がある椅子、全て石で出来た椅子、絶縁体で全体を覆われた椅子など、多種多様で大量の椅子。

 その中から数種類の椅子が選出され、それぞれ机の下に収納されていた。先ほどまでヒトが座っていたらしく、丁寧に椅子を入れていることから真面目な人物達が座っていたのだろうと推測できる。


「つかれてぁ……」

「お疲れ様ですライアー様」


 応接室の訪れていたのはアランを支持する有力な貴族達と、選挙で何年も平民院議員に選ばれているベテラン議員達であった。彼らは魔王及びライアーを支持する者達で、平民院・貴族院において魔王派と呼ばれる勢力である。どちらの議会においても最大勢力(議員の過半数)を誇り、彼らが意見を同じくすることで議会で法を採決させている。

 そんな魔王派が応接室から出ていったのを見送るのと同時に、目の前の大机に突っ伏して情けない声を漏らすライアー。傍らの秘書がぬるめに冷やされたハーブティーをコップに入れ、そんな彼のもとに置く。ライアーは体を椅子の背もたれにあずけ、仰向けのようになりながらそれを飲んだ。


「今何時……」

「現在十六時となります」


 中庭に面した窓から左斜めに傾いだ日光が部屋の中に差し込み、真っ白な陶器の花瓶に活けられた花を照らし出している。


「……殺すにしてもヴィクティム公は無しでしょ。ねぇ? そう思わない?」

「はい。そうですね……よりにもよって魔王派の中心人物を……お疲れ様ですライアー様」

「…………」

「……この後十七時頃より外交長官様とのお食事、その後十八時頃から……ライアー様?」

「………………」


 ハーブティーを飲みほし、何も言わず再び机に突っ伏すライアー。それを見かねた秘書がライアーの左耳を摘まんで持ち上げ、諭すように言った。


「…………御自身がここまでご予定を詰めたのではないですか。とりあえず裁判所の事件を早くなんとかしようと」


 秘書の言葉に顔を上げる兎。


「わかったって……けど疲れた……一時間休ませてく」ココンココンコンッ


 ふと、応接室のドアを叩く音が響いた。その独特のリズムのノックする音を聞いて途端に押し黙るライアー。長年彼の下で働いている秘書は、考えるのをやめたのだろうと察しながら、ライアーにとっての災厄の待っている扉を開いた。

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