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ヒトに向かって刃物を投げてはいけません

 某日、というか誘拐事件の一週間が経とうかという頃。アランは黙々と屋敷二階の廊下を掃除していた。一言も発さず、無駄な動作……はある理由によりかなりあるが、真面目に取り組んでいる。


「えいっ!」


 その原因は今の可愛らしい声をあげた少女。……フェアがその無駄な動作を引き起こしている原因である。

 彼女は掛け声と共に、“非常に鋭いナイフ”をアランに投げつけた。可愛い顔を声をしておきながらやってることは洒落になっていない。

しかし、本職(曲芸師)などでは無いので刃先が相手に水平のまま飛ぶなどと言うことは無く、回転しながらだが、コントロールだけは良いので獲物の背中に向かっていく。

 が、アランは軽く体を捻るだけでまともに飛来物を見ることもなく、親指と中指で刃の腹の部分を摘まむことで受け止めた。そして先ほどから傍に居る、自身の影から生み出した『影の尖兵』が持っているトレイに入れる。


「……むうぅ……面白くないわ……ね!!」


 喋りながら今度は両手に一本ずつナイフを持ってアランに同時に投げつけるフェア。相変わらず良い弾道で飛んでゆく。

 今度は影の尖兵が両手で掴むように二本のナイフを受け止めた。フェアはふくれっ面になってアランに近づき、非力な腕力で掃除をしている下僕をポコポコと叩き始めた。

 当のアランは痛くも痒くも無いので黙々と壁を拭いている。


「下僕何とか言いなさいよ、つまんないじゃない!暇だからあなたを弄ってるのに……にか言いなさい! ……それか、私に魔法を教えなさいよ!!」

「お嬢様も二階位の基本級魔法までは使えるではありませんか」

「戦闘向きの魔法を教えなさいって言ってるの! 護身用の魔法を!!」


 アランは溜息をついた。すると、フェアの腕を掴み壁にもたれさせて、俗にいう壁ドンの体勢にさせる。身長差は二十センチ以上あるのだが、美男美少女であるためか何とも画になる光景になっていた。


「……お嬢様。だから、絶対に教えないと何度も言っているでしょう。魔法研究や戦いに生きるわけでも無いのですから。お嬢様には必要無いのですよ? そもそも魔法というのは遊びで習うようなものではないのです」


 真面目な表情でフェアを諭すアラン。一方のお嬢様の方と言えば顔を赤くして、口をパクパクとさせている。


(この壁ドン、とやら。偶然天界で知ったことだが、ここまで効果があるとは……まぁ頻繁に使っても意味は無いらしいが)


アランは実に冷静に目の前の少女を観察しながら、普通に失礼な事を考えていた。


「い、良いじゃないのよ! 別に覚えておいて損は無いじゃない!!」


 アランは損という言葉を聞き、意地の悪い返答を思いついた。


「……はいはい、わかりました。教えても良いですよ。ただし、教えた魔法で対処できる問題が発生しても休暇中に帰ってきませんからね?」


 フェアは目をわずかに見開いた後、何かを考えるように俯いた。しばらくしてフェアが頭を急に上げて、慌てたように断りをいれる。


「だ、駄目! え……ん? ……いや、良いわ! やっぱり教えなくて良い!!」

「いやいや、良いですよ。教えてあげますから。遠慮無さらないでください。」


 傍からみればとても自然な笑みを浮かべながら、フェアに優しく語るアラン。


「うるさい! 良いって言ってるでしょ! 馬鹿!!」


 フェアは力任せにアランを突き飛ばした後に、スカートを翻して階段を駆け下りていった。その後ろ姿をニヤニヤと笑いながら目で追っている自分を見つけ、


「最近あの小娘の性格がうつってきた気がする……」


 アランはいかにも不服そうに、ボソリと呟いて掃除を再開する。埃を濡れ雑巾でふき取り、箒で廊下の壁際から中央に向かって床を掃く。


「というか、あの小娘の相手をするのもほとほと疲れたのだがなぁ……」


 実はあの誘拐事件以降、フェアがアランに何かと理由や文句をつけて絡んでくることが増えたのである。絡まれている本人としては疲れるばかりで、溜息を吐きながら掃除を続ける。


 やがて廊下はゆっくり床を見ながら歩いても、汚れやごみに気付かないほどに綺麗になった。そして現在は他に命令されたことも無いので、アランは自室に戻って自身が不在の間に起きていたことをまとめて、整理することにした。


 ◆◇◆◇


「なんだかんだと、色々出来事が起きているものだな……ん?」


 アランがメイルやルークから聞き出した出来事を、時系列ごとに記録した年表を眺めながら頭を悩ませていると、背後に魔力の出現を感じた。何事かと振り向いてみれば、虚空にひずみが出来ている。


「この向こうから感じる魔力は・・・!!」


 歪みは段々と大きくなっていき、終いにはアランの部屋ほどの“亜空間の入口”が出来た。アランはその奥にいる者達の魔力を感じとり、身が震えるほどの歓喜を覚える。


「お、おおぉ……おお!!」


アホの子のような声をあげていると、亜空間の向こうから四つの頭が見えた。


「「魔王様!!」」


 頭を出した四人の声は見事にハモる。女、女、男、オス。男女それぞれ二人(?)ずつが、アランの方を向くなり役職名を叫んだ。

 一階からフェアの「うるさいっ!!」という声が聞こえてきたが、アラン以外は聞こえなかったようだ。


 アランはフェアの言葉の優先順位を後にして、四人に疑問を問いた。


「久方ぶりだな! 我が“部下達よ! ……ところで、何故クロノスは顔を見せんのだ?そこにいるんじゃないのか……って、あ!?」


 アランは喜びの為に忘れていた、クロノスという人物の種族の特徴を思い出し、とある対策の為の魔法を唱えようとした。しかし、時すでに遅し。五つ目の頭が、既に亜空間から頭を出していた。


「『パラライズ・ロッk……ギャアアアアァァァァァア!!」


アランは壮絶な叫び声を上げた。

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