第7章
あたしはルカの馬に乗せてもらい、城へと向かった。
歩くのとは違って、馬だとあっとゆう間に街まで着いた。
街の中は相変わらず浮浪者が多く、店が開いていても活気がない。
これでこの国はちゃんと成り立っているのだろうか。
人ごとながら、なんだかとても心配になってしまう。
城門をすぎるとルカは一緒にいた男達と別れ、城には向かわず横道に逸れた。
「どこへ行くの?」
あたしは不思議に思い、ルカに訪ねた。
「城に行く前に会っていただきたい方がおりますので」
しばらく馬を走らせていると、一軒の家にたどり着いた。
馬を降り、ルカに続いて家の中に入った。
家の中に入ると怪しげで、なんだかよくわからない物が所狭しと棚に並んでいる。
なんだか魔女の家にでも来た気分。
「お婆、お連れしたぞ」
ルカが声をかけると、家の奥から老婆が出て来た。
「遅かったの、どこで見つけた?」
「チェルカの森に」
「チェルカの森か。わしとしたことが、ずいぶん遠くに飛んでしまったもんだ」
「まったく、もうろくしたもんだな」
「はん! あの術がどれほど大変なものか知らんもんが生意気言うんじゃないよ」
老婆はルカの前を通り過ぎ、あたしの前まで来るとジッと顔を覗き込んだ。
「名は?」
「……鈴、です」
「ちぃと、華やかさのない顔だな」
はっ!?
人の顔を見ていきなり、華やかさがないなんてずいぶん失礼な!
どうせ、あたしの顔は平凡な顔立ちですよ。
「まぁ、よい。わしが呼び出したとおりの黒髪と黒い瞳を持った者だからな。贅沢は言うまい」
「ちょっと待った! 今呼び出したって言わなかった」
「なんじゃ、話しておらんのか」
あたしの言葉に、お婆は意外そうにルカに言った。
「あぁ、話している時間がなかった」
お婆は仕方なさそうな顔をし、口を開いた。
「おぬしを呼び出したのはあたしだよ」
「なんで、そんなことを! 早くあたしを元の世界に戻して!」
「戻す? この全宇宙の時空をねじ曲げてお前を呼び出したというのに、そんなこと、このお婆でもそう何度も出来る訳ないだろ」
出来ないって……。
「あのね、勝手に呼び出しておいて戻せないなんて、なんて無責任な」
すると、お婆はあたしをキッと睨んだ。
「おぬしはちゃんと人の話を聞いておるのか。短い期間にそう何度も時空をねじ曲げる事は出来ないと言ったんだ。戻せないとは言ってないだろうが」
「そ、それじゃ、元の世界には戻れるのね」
「だいたい、おぬしを呼んだ目的も果たしておらんのに、返せるわけなかろう」
「呼び出した目的?」
一体、あたしに何の目的があって呼び出したっていうんだろう。
「おぬしには、この国の王の花嫁になってもらう為に呼んだんじゃよ」
へぇー、そうなんだ。
そんな目的があって……。
えっー!
「どうゆうことよ、それ!」
なんであたしがこの国の王と結婚しなきゃいけないのよ。
勝手にあたしの結婚相手を決めないでほいわ!
「まったく、いちいちうるさい娘じゃな」
お婆は、うるさそうに顔をしかめた。
うるさいって、人に自分の人生勝手に決められて黙っていられるわけないじゃない。
「ルカ、あとはおぬしが説明せい。わしは薬の調合の途中だったんでな」
それだけ言うと、お婆はあたし達を残して奥の部屋へと姿を消した。
しばらくお婆が消えていった部屋を見つめた後、あたしはルカへと向き直った。
「どうゆうこと!」
いまにも掴みかかりそうな勢いで、あたしはルカに詰め寄ったが、そんなあたしをなだめ、城へ向かう道すがら説明してもらう事になった。