第6章
次の日、薪割りをしているとクルトが近づいてきた。
「ねぇ鈴、剣の使い方教えてよ。僕、強くなりたいんだ」
あたしは薪割りの手を休めた。
「あれは剣とはまたちょっと違うんだよ」
剣道はあくまでもスポーツであり、実践の剣を使うのとは訳が違う。
ただ、昨日から何度説明してもクルトは違いを理解してくれない。
「クルト、まだ言ってるの」
薪を持ったソニアがあたし達に近づいてきた。
「ソニアには関係ないだろ!」
「お父さんの許可がなかったらダメだって、昨日の言ったじゃない」
あたしは小さく溜め息を吐いた。
昨日からずっとふたりのこの状態が続いているのだ。
剣を習いたいというクルト、お父さんの許可がないからダメだというソニア。
仕方なくあたしはふたりの仲裁に入ろうとしたその時、人の声が聞こえ振り返ると、4頭の馬に乗った男達がこちらに向かって来ている。
クルトとソニアも気づいて、喧嘩を止め男達の方を振り返る。
男達はあたし達の前まで来ると馬の歩みを止め、馬から降りた。
「お前か、昨日街で騒ぎを起こした黒髪の娘は」
その言葉にあたしは嫌な予感がした。
昨日の騒ぎを聞きつけて、あたしを捕まえに来たのかもしれない。
「何の用?」
あたしはクルトとソニアを背後に隠しながら、男達を睨んだ。
「今から一緒に城まで来てもらおうか」
「なんであたしが城に行かなきゃならないのよ」
あたしは何にも悪い事していないのに、なんで城に連れて行かなきゃいけないのよ。
冗談じゃないわ。
「素直に来てもらいないなら、無理にでも来てもらうしかないな」
徐々に近づいてくる男達を警戒しながら、あたしは持っていた斧をしっかりと握った。
あぁ、でも昨日の棒と違って斧だと危ないよな、どうしよう。
いくらなんでも、殺人犯にはなりたくない。
「やめろ!」
どう対応しようか迷っていると、男達がやって来た方向からひとりの青年が馬に乗ってやって来た。
長身の青年は近くまでやって来ると馬を降り、あたし達に近づいて来ていた男を睨んだ。
「手荒なことはするなと言ったはずだぞ」
「申し訳ありません」
睨まれた男は頭を下げ、後ろに下がった。
「私は城に仕えている者で、ルカ・ルーシドと申します。先程は私の部下が失礼を致しました。あなた様に城に来ていただきたくて気がせってしまったようです」
ルカ・ルーシドと名乗った男はあたし達に向かって丁寧に頭を下げた。
部下って……、20歳前半に見えるルカの方が絶対若いと思うけど。
「改めて私どもと一緒に城に来ていただけませんか」
さっきの男達とは違って、丁寧な言葉で言われあたしは戸惑った。
一体この人たちは何をしにきたのだろう。
絶対昨日の件で警察とかに連れて行かれるのかと思ったのだけど、ルカの様子を見るとそうでもないらしい。
でなきゃ、こんなに丁寧にお願いするわけないよね。
「ずいぶん騒がしいのう」
どうすればいいか対応に迷っていると、家から老師様が出て来た。
「なんじゃ、おぬしらは」
老師様の言葉にルカはあたしにしたように、丁寧に挨拶をし、あたしを城に連れて行きたい事を告げた。
「ふむ。嬢ちゃんはどうするんじゃ」
どうするって言われても……、どうしよう。
「迷う気持ちもわからんではないが、行く事で嬢ちゃんのここへ来た意味がわかるかもしれんぞい」
本当にこの人達と一緒に行ったら、あたしがここに来た理由がわかるんだろうか。
「せっかく来た迎えじゃ、無下に断る事もなかろうて。何事も前に進んでみんことには、結果は得られんでのぉ」
そ、そうだよね。
老師様が言ったように、一緒に行くことであたしが元の世界に戻る手がかりがわかるかもしれないなら、行ってみる価値はあるかもしれない。
「わかりました。一緒に行きます」
あたしは一緒に行く事を決めた事を伝えると、右の袖を軽く下に引っ張られた。
「鈴、行っちゃうの?」
短い期間だったけど、すっかり懐いたクルトが寂しそうに言った。
「大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから」
あたしは自分が元の世界に戻る方法を確認したら、また戻ってくるつもりだった。
だけど、あたしはそう簡単にはいかないことは、まだこの時は知らなかった。