第4章
朝日が部屋に降り注ぎ、眩しさで目が覚めた。
いつもなら、布団の中でくすぶっているあたしだが、ガバッと布団をめくり上げるように上半身を起こす。
そして、ゆっくりと部屋を見渡した後、深いため息が出た。
やっぱり、夢じゃなかったんだ……。
もしかして、昨日のことは全て夢で、起きた時にはいつもの自分の部屋にいるんじゃないか、そんな期待があったのだが、期待は見事に外れた。
老師様の家はそれほど広くはなく、あたしはクルトとソニアが使っている部屋を一緒に使わせてもらう事になったのだが、部屋にベッドは2つしかなく、体の大きさからあたしがひとつ、そしてもうひとつはクルトとソニアが共同で使う事になった。
そのもうひとつのベッドを見ると、すでに人の気配はなくもぬけの殻だ。
あたしはベッドから降り、食堂へと向かうと、すでにクルトとソニアが朝食の用意をしていた。
「昨日はよく眠れたかの」
後ろから声を掛けられ振り向くと、老師様が立っていた。
「おはようございます。おかげさまでよく眠れました」
「それは良かった」
老師様はあたしの横を通って、食堂のテーブルにつき、それにならいあたしもテーブルにつくと、ソニアが山菜の入ったスープを運んできてくれた。
テーブルの上には、すでに丸いナンのようなものが置いてある。
昨日の夕食も思ったけど、かなり質素な食事だ。
ソニアが全員のスープを並べると椅子に座り、スープをよそっていたクルトも席に着き、みんなで朝食を食べた。
「老師様、今日は何をすればいいの?」
朝食を早々に食べ終わったクルトが、老師様に話しかけた。
「そうじゃの。今日は水汲みと森で山菜採りでもしようかの」
朝食が終ると、クルトとソニアとあたしの3人で、山菜採りに行った。
しかし、山菜採りなどしたことないあたしにとっては、すべて同じ草にしか見えない。
そう思いながらも、クルトに教えてもらった草を探し摘んでいたのだが、しばらくしてからクルトがあたしの近くにやってきて、山菜を入れていた籠を覗く。
「鈴、これ全部違うよ」
驚いて自分の籠の中を手にとって見たが、どう違うのかがわからない。
「食べれるのは葉がギザギザのほう。鈴が摘んだ葉は丸いだろ。これは毒を持っているから食べたら死んじゃうよ」
クルトに毒を持っているといわれ、慌てて摘んだ葉を籠から捨てた。
だって、怖いじゃない。
毒があって、食べたら死んじゃうなんて。
そんなあたしを見て、クルトが笑った。
「そんなに慌てて捨てなくても、持ってるだけじゃ死なないよ。鈴って大人なのにそんな事も知らないんだね」
だって、仕方ないじゃん。
あたしのいた世界で、山菜に詳しい人の方が稀だったんだから。
しかし、クルトの籠の中を見るとあたしに教えた草だけでなく、いろんな種類の山菜を籠一杯に摘んでいた。
山菜採りに来る時は、保護者のような気持ちで来ていたのに、10歳の子供にそんなことを言われ、あたしはすっかり気を落としてしまった。
そして山菜採りを終えると、昼食をはさんで水汲みに行った時にも、思い知らされる。
「ねぇ、水汲みっていつもやってるの?」
そう聞くとソニアが答えた。
「2日に1回くらいかな。老師様の家の近くには井戸が無いから、いつも川まで汲みにいかないといけないの」
老師様の家から川までは約2キロほどだったけど、蛇口をひねればすぐ水が出る生活に慣れていたあたしにとって、桶2つに水を汲んで家まで帰るのはかなりの重労働だった。
しかし、クルトとソニアは何でもないかのように、水汲みをして家まで運んでいる。
あたしのしていた生活がいかに労力を使わずに、楽な生活をしているかを思い知らされる。
水道って偉大だ。
水汲みを往復4回し終った頃にはすっかり体力を消耗し、へばってしまった。
あたしって、こんなに体力なかったっけ。
剣道をやっていたころは走り込みや筋力作りをしていたから体力には自身があったのに、大学に入学してからサボっていたツケが今きたって感じだ。
やっぱり、サボらず走り込みぐらいやっておけば良かった。
しかし、そんなことを考えても後の祭りで、クルトとソニアはそのあとすぐに夕食を作り始め、夕食が出来上がる頃にはすっかり大人としての威厳はなくなっていた。