第37章
次の日、日の出とともにミケルはあたしを馬に乗せ、その後ろに乗って出発したが、30分程馬を走らせ、小さな村が見えてくるとミケルは馬を止めた。
「鈴、馬はひとりで乗れる?」
「何度かルカに教えてもらったけど」
「良かった。じゃ、ここからはひとりで帰れるね」
そう言ってミケルは小さな袋をあたしに渡すと、馬から降りてしまった。
帰れるねって……、どこへ……?
「この村を通り過ぎてしばらく行くと分かれ道がある。そこを左に行くと大きな街に出るから、そこで城までの道を尋ねるといい」
「……なんで、あたしは人質として連れてきたんじゃ……」
ミケルは軽く肩をすぼめた。
「そうだよ。でもそれは城を出るまでのこと。これ以上君を巻き込みたくないからね」
「……ミケルはどうするの?」
「本当は城まで送ってあげたいところだけど、今はまだ捕まるわけにはいかないから。君は城に帰ったら1日でも早く元の世界に戻った方がいい」
それってやっぱり……。
「ね、ミケルにとって王位ってなに?」
ミケルは少し考えてから答えた。
「影……、かな」
「影……?」
どうゆう意味だろう……。
「もう行った方がいい。でないと今日中に戻れないよ」
あたしは影と答えた意味を聞こうとしたが、ミケルが馬の尻を叩いた為馬が歩き出し、それ以上ミケルと話をする事が出来なかった。
ミケルの姿が見えなくなる頃、ミケルから貰った小さな布の袋を開けると、そこに入っていたのはお金だった。
あたしの事を心配して渡してくれたんだ。
このままあたしを人質としてそばに置いておけば、ミケルにとって有利に運ぶはずなのに。
こんなお金まで渡してあたしを城に戻してくれるなんて……。
ミケルの優しさが心に染みた。
なのになぜ大勢の人が傷つき死ぬかもしれないのに、王位を欲しがるんだろう。
あたしは不思議でしかたなかった。
ミケルが言った王位とは影と答えた謎掛けのような言葉。
その言葉の意味を必死で考えたけど、結局あたしの頭では答えを見るけることができなかった。
あたしはミケルに言われた通り、途中で城までの道を聞きながら帰ったが、馬の扱いが初心者だったということもあり、城に着いたのは日が沈み辺りが真っ暗になった夜更けの頃だった。
松明が焚かれた城の門の前まで行くと、突然帰ってきたあたしを見て門番をしていた兵は驚き、慌てて城の中へと連絡に走っていった。
その為、あたしが城の中へ入ると最初にルカが迎えてくれた。
「よくご無事で」
「鈴様!」
その後に涙目になったカリナが走ってきたあたしに抱きついた。
「心配致しました」
あたしはそっとカリナの背中を撫でてやった。
そして城の一番奥からアシルがやってくるのが見えた。
「ただいま……」
「……足の方はちゃんと医者に見てもらえ」
それだけ言うとアシルは踵を返していった。
ぶっきらぼうな言い方で、以前のあたしならアシルの態度に腹を立てていたけど、今となっては不器用な優しさが伝わってくるから不思議だ。
その後、あたしはアシルが言っていたとおり、城に常駐している医者に足を診てもらった。
「最初の処置が良かったのですね。化膿もしていませんし、この様子ですと傷を残す事無く数日で完治するでしょう」
医者に言われて内心ホッとしたあたしだった。
ミケルの処置に感謝しなきゃね。
しかし、ミケルはあの後何処へ行ったんだろう。
結局あたしはミケルを止める事が出来なかった。
そのことが自分の中でとても気がかりだった。