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第35章

半日以上馬を走らせ続けて着いた場所は、人里離れた一軒家だった。


日はすっかり落ち、あたりは真っ暗だ。


ミケルは馬から降りると、あたしを抱きかかえるように降ろし、そのまま抱き上げた。


「お、降ろして」


あたしは慌てて降りようとした。


「その足じゃ歩けないだろ。あんまり動くと落ちる」


そう言われると大人しくしているほかない。


「ここは何処?」


「僕が旅に出るまでの2年間を過ごした場所」


家に入って部屋を見渡すと部屋が3つあるだけのこじんまりとした家だった。


あたしをそっと椅子に座らせたミケルはテーブルにあったロウソクへ火を灯し、あたしお前にひざまついた。


「傷、見せて」


ミケルはあたしの左ももに巻かれている血で真っ赤に染まった布をゆっくりと取った。


「ずいぶん思いきった事をやったもんだね。まだ少し出血している」


ミケルは家の中をなにやら探し始めると、何かが入った瓶と布を持ってきた。


「化膿しないよう消毒するね。少し痛いけど我慢して」


そう言うと瓶の中身を一度にでないよう瓶の入り口を自分の親指で押さえると、一気に傷口へと振りかけた。


「うっ!」


一気に体中に痛みが広がり、両手をギュッと握った。


ミケルのバカ!


少しって言ったのにメチャクチャ痛いじゃん!


そんなあたしの様子を気にする事無くミケルは傷口を綺麗に拭き取ると、新しい布を巻き始めた。


「傷口が塞がるまでは無理はしない方がいい」


その頃になってようやく痛みが引き始め、あたしは大きく息を吐き出した。


「なぜ?」


頭の中では聞きたい事が沢山あるのに、なぜという言葉しか出てこない。


「痕が残らないといいけど」


しかし、ミケルはあたしの質問に答えようとしない。


「ミケル!」


ミケルは別の椅子に座りジッとあたしを見つめた。


「ミケルがエンバーの仲間だったなんて……」


なによりあたしはその事実がとても悲しかった。


「それは違う。エンバーは自分の利益の為に僕を利用した。だから、僕も同じように利用した。それだけだ。もっとも、それを仲間だというのなら否定はしないけどね」


「だから……、必要がなくなったからエンバーにあんな事をしたの?」


エンバーの手首を何の戸惑いもなくミケルが切り落とした光景が、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。


「そうだよ。彼は僕にとって必要ではなくなった。それだけのこと」


ミケルの瞳は冷たくなんの感情も映していないようで、まるで、自分の知らない人を見ているかのようだった。


あのやさしいミケルはどこへ行ってしまったのだろう。


「ミケルが王位を望めば、内乱が起きるかもしれないんだよ」


「うん、そうなるだろうね。今のこの国ではアシルが王になっていることをよく思っていない人は沢山いるしね。これだけ国が疲弊していれば当然の結果だけど」


なんでも無い事のように言ったミケルにあたしは怒りが込み上げてきた。


「多くの人が死ぬかもしれないのに、ミケルは平気なの?」


ミケルは少し黙った後、口を開いた。


「君ならどうする? ずっと城を追われ、身を隠すように生きてく人生と、王位に即く事で身を隠す事無く堂々と生きる事が出来る人生と、どちらを選ぶ?」


まっすぐ見つめ答えを求めるミケルに、あたしは答えることが出来なかった。


ミケルは10年もの間、身を隠すように生きてきたんだ。


その生活はきっとあたしが想像するよりもきっと、辛い生活だったに違いない。


それが王位に即く事で身を隠す必要もなく堂々と生きていけるなら、そう思うとミケルをこれ以上責める気にはなれなかった。


でも……、ミケルのやろうとしている事が必ず正しいとは思えない。


もっと他に方法があるんじゃないかな……。


「なら……、僕と一緒に逃げてくれる? 僕が王位に即いていたなら、鈴と結婚するのは僕だったんだ。鈴が一緒に逃げてくれるなら、王位は諦めてもいいよ」


あたしとミケルが一緒に……。


あたしはまたもミケルの質問に答える事が出来ずに下を向いてしまった。


「さぁ、今日はもう遅い、寝よう」


ミケルはあたしの返事を聞く事無く立ち上がると、あたしを抱き上げ隣の部屋のベッドの縁へと座らせてくれた。


「お休み」


そう言うとミケルは部屋を出て行った。


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