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第31章

目が覚めるとすっかり日が昇っていて、部屋を見渡すとすでにミケルの姿はなく、体を起こすと昨日の体の重さが嘘のように軽くなっていた。


ミケルから貰った丸薬が効いたのかな。


朝食を終えて、あたしが部屋でのんびりと過ごしていると扉がノックされ、カリナが扉を開けるとそこにいたのはアシルだった。


「出かけるぞ」


アシルは部屋に入るなり突然そう言い出した。


「出かけるって……、どこへ……?」


「行けばわかる。馬屋で待っているぞ」


それだけを言うとさっさと部屋を出て行った。


一体どうしたんだろう。


疑問に思いながらもあたしは手早く出かける用意をし、馬屋へ向かった。


「遅い!」


自分が突然呼び出しておいて遅いと言うのはずいぶん勝手だな。


まったく、女の子は用意に時間がかかるっていう事をまったくわかっていない。


心の中で文句を言いながら、あたしは馬にひとりでは乗れない為、アシルの馬に一緒に乗せてもらった。


いつもなら馬に乗る時はルカに乗せてもらっていたけど、いつもと違う相手になんだか緊張してしまう。


しばらく馬を走らせ、あたし達は街中を抜け少し小高い丘へと着いた。


あたしは馬から降りると辺りを見渡したが、少し開けた丘と周りに林があるだけで、他には何も無い。


「ここは?」


「ここにお前の言っていた学校というものを作ろうと思う」


驚いてアシルを見ると、アシルは悪戯っぽく笑った。


「いくら政治に関わっていないとはいえ、これぐらいの事をするだけの権力はあるぜ」


あたしはただただアシルを見つめていた。


だって、学校があればとは言ったけど本当に現実になるとは思わなかった。


しかもこんなにも早く……。


「どうした?」


「まさか……、ホントに作る事になるとは思わなかったから……」


「この国の状況を長老達に聞かされたのは1年前だ。王位に就いてからほとんど城から出る事の無かった俺はそれほど深刻に事を受け止めていなかったが、ある時ルカと一緒に城を抜け出して街を見に行った時、俺は愕然としたよ。幼い頃に見た街はもっと活気があったのに、今じゃ一変してしまった」


アシルは悲しそうに下を向いた。


「俺は心底後悔したよ、今までなぜ政治を任せっきりにして関わってこなかったのかと」


「関わってこなかったって言っても、王になったのは8歳だって言ってたでしょ。どうにかしたいって思ってもどうにもならない事ってあるよ」


今だってアシルは18歳だ。


あたしが18歳の時って、友達とバカな話をしたりしてただ毎日を過ごしていただけだったような気がする。


国の事や政治の事なんて考えた事もなかったのに、アシルはすでに国を背負っている。


それがどれほど大変なことなのか、あたしには想像もつかない。


「以前お前と行った農村で農作物が横流しされている話、覚えているか?」


「うん」


「あれからルカに調べさせた結果、エンバーが関わっているらしい」


エンバー……。


その名前を聞くと腹立たしさを覚える。


「しかし、どうしても証拠が掴めない。証拠さえあればエンバーを失脚させる事ができるんだが……」


アシルが悔しそうに言った。


「頑張ろう!」


最初は嫌なヤツだと思っていたけど、アシルはちゃんとこの国の事を考えている。


学校のことだってそうだ。


いくら王だからって、こんな短期間に物事を決めるのはきっと大変だったはずだ。


そんな真剣な思いをあたしは応援してあげたい、そう思った。


「あきらめちゃダメだよ。悪い事をしているヤツは絶対どこかでボロがでる。今のあんたならきっと出来るよ。あたしも、出来る事は協力するからさ」


アシルはジッとあたしの顔を見た後、フッと笑った。


「お前ってホント、規格外だな」


そう言ったアシルはいきなりあたしを抱き寄せた。


えつ! 何?


アシルの吐息が耳元で聞こえてくる。


あたしはアシルの腕の中にすっぽり包まれ、自分の鼓動が早くなるのを感じた。


「城を出てから何者かにつけられている」


えっ……?


耳元でアシルが囁いたその言葉であたしの中で緊張感がはしった。


「俺が合図したら林の中へ逃げるぞ」


あたしは小さく頷いた。


「行くぞ!」


アシルはあたしの手を取り林へと走った。


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