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第29章

あれから3日、あたしはいろいろな事が頭の中に浮かび上がりそして消えていく。


あたしはいつになったら帰れるのか。


アシルに政権を取り戻す為にはどうすればいいのか。


アシルが結婚するのが一番手っ取り早い、それはわかるけど……。


あたしの脳裏にアシルが最後に一瞬見せた寂しげな表情が思い浮かぶ。


なんでアシルのあの表情が忘れられないんだろう。


なんだか胸が切なくなる。


その時、扉をノックする音がしカリナが顔を出した。


「エルマー様が鈴様とお会いしたいと言っておりますが」


エルマーってたしかアシルの伯父で後見人の人。


あたしと会いたいなんて、なんでだろう。


しかし、断る理由も無かったあたしは、会いに行くことにした。


カリナの案内で城の奥まった部屋へと入ったが、エルマーはまだ来ていない。


あたしは椅子に座り、エルマーが来るのを待っていたがなかなか姿を現れない。


あれ、なんの匂いだろ。


部屋に入った時には気がつかなかったけど、鼻をくすぐる様な、でもけして嫌な匂いではない。


辺りを見渡すと、壁際の机の上にある陶器の置物から微かな煙が出ている。


お香……。


そういえばあたしもよく部屋でお香をやっていたことを思い出した。


この香り、なんだかとってもフワフワとした気分になる。


少しの間お香の香りに浸っていると扉がノックされ、中年の男性が側近らしき人を従えて入ってきた。


「呼び出してすまなかったね。私はエルマー・ダンバーだ」


エルマーは白髪交じりの、おじさんというよりはおじ様という呼び方がとても似合う紳士的な人だった。


挨拶した時の笑顔は、初対面で好印象を与える。


その笑顔にあたしはつられて笑顔で自己紹介をすると、エルマーはあたしの顔を見ると驚いた顔をした。


「君は本当に伝説の女性と言われる容姿をしているんだな」


「……どうゆう意味ですか?」


「いや、気を悪くしないでくれ。黒い髪に黒い瞳。そんな女性がいるとは思わなかったものでね」


その口調は最初の印象とは違い、なんだかとても皮肉に聞える。


「早速だが、君は自分国に帰りたいと言っているそうだな」


「……はい」


あたしの返答にエルマーは満足そうに頷いた。


「そこでだ、君を元の世界に返してあげようかと思ってね」


エルマーの意外な申し出に驚いた。


「あたし、帰れるんですか」


「私は以前から君の意思とは関係無くこの国に呼んだ事を、心苦しく思っていたんだよ。この者はチェスターと言って、この国でも指折りの術師だ。この者なら君を元の世界へ帰す事が可能だろう」


元の世界へ帰れる。


あたしにとってとても魅力的な話だった。


だけど、なぜだろう、何かが引っ掛かる。


「でも、あたしを呼んだ術は呼んだ本人でなければ元の世界へは返せないと聞きました」


優しい笑顔をあたしに向けているエルマーにどうしても違和感を感じる。


「それは嘘だよ」


「嘘……」


「あぁ、君をこの国にとどめておく為の嘘だ。どうしても君を伝説の女性に仕立てあげたかったのだろ」


なんだろう、この違和感は……。


あたしは真直ぐエルマーを見た。


あぁ、そうか。


この人、目が笑っていないんだ。


優しい笑顔の下で目だけがとても力強く、人にノーと言わせない意思が潜んでいる。


元の世界に帰りたい、その気持ちはもちろん今でも変わらない。


でも、あたしは……。


「お話は有り難いのですが……、ご遠慮致します」


すると、エルマーは笑顔のまま目の奥が更に力強くなった。


「なぜだね? 君にとって良い話だと思うが」


「ええ、確かにうれしいお話なんですが……」


あれ、なぜだろう視界がぼやける。


あたしは手で目を擦った。


しかし、ぼやけた視界は直らない。


「どうされました?」


大丈夫、そう言おうとしたが今度は目眩が襲ってきてあたしは近くの机に手をついて体を支えた。


あたし、どうしたんだろう。


目眩はどんどんひどくなる一方だ。


そのうち立っていられなくなり、あたしはその場に崩れ落ちた。


そのうえ、体を動かそうとしても体が痺れて動かす事どころか、声さえも出ない。


「ようやく効いてきたようだな」


エンバーはあたしに近づき上から見下ろした。


「素直に帰ってしまえば良いものを。まったく、アシルに余計な事を吹き込みおって」


ぼやけた視界ではエンバーの表情はわからないが、最初の時とは違いとても冷たい声だ。


あたしこのままどうなっちゃうんだろう。


『身辺に気をつけて』


ミケルの言葉を無情にも思い出す。


そっか、ミケルはこれを言いたかったのかもしれない。


「娘、帰ると言わなかった事を後悔するんだな」


そしてあたしの意識は暗闇へと落ちていった。


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