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第27章

『身辺に気をつけて』


ミケルにそう言われて1週間経った。


湯浴みも終え、カリナが用意してくれていたお茶を入れ長椅子に座った。


身辺って言われてもなぁ……。


その言葉の意味を考えていたがよくわからない。


まさか、歩いていたら上から植木鉢が落ちて来るとか、そんなオーソドックスな事じゃないよね。


実際この1週間、特に何ごともなく過ごしていた。


一体どうゆう意味だったんだろう。


あたしは一口お茶を飲んだ時、乱暴に扉を叩く音がした。


こんな夜に誰だろう。


あたしは警戒心を持ちながら扉に近づき、そっと扉を開いた。


すると、そこに居たのは意外にもアシルだ。


アシルはあたしに断る事も無く部屋へと入ってきたが、心もとない足取りで長椅子に座ると、手に持っていた瓶を一口飲んで前にあるテーブルに置き、くつろぎ始めた。


どう見てもいつものアシルと違う態度にあたしは戸惑いを感じ、あたしはゆっくりとアシルに近づくとアシルからアルコールの匂いがした。


テーブルに置かれた瓶を手に取り、匂いを嗅ぐと予想通りお酒だった。


アシルの様子からすると、ここに来るまでにかなりの量を飲んでいるようだ。


「ね、ここが何処だかわかってんの?」


するとアシルはクッと笑った。


ここって笑う場面じゃないんですけど……。


「もちろん。未来の花嫁の部屋だろ」


未来の花嫁って……。


ああ、酔っぱらいってホント、予想外な言動や行動をとる事があるよね。


「酔っぱらいの相手をするほど、あたしは暇じゃないんだけど」


あたしはアシルの言葉に苛立を感じた。


アシルとは街に置いてひとりで帰って以来まったく音沙汰のなかったのだ。


こんな風に酔っぱらっているところを見ると、あの時あたしの言った言葉は真剣に受け取られていないのだと思った。


アシルに期待したあたしがバカだったのかも。


最近のアシルの態度が柔軟になったことで、少しでも期待した自分が情けなくなる。


所詮、人の上に立っている人は、底辺にいる人の事なんてどうでもいいのかもしれない。


「俺は、不甲斐ない王だ」


今さら何を言ってんのよ。


すでに、あたしはアシルの言葉に反論する気にもならなくなっていたあたしは言葉を返す気にもならない。


「この国の王でありながら、政治に口を出す事が出来ないなんてな」


一瞬あたしは耳を疑った。


「……今、何て言ったの? 政治に口を出せない……?」


「あぁ」


「それってどうゆうこと!」


詰め寄ったあたしにアシルはフッと笑った。


「言葉通りの意味だぜ」


「その意味がわからないから聞いてんじゃない! ふざけないでちゃんと答えなさいよ!」


アシルは酒瓶を手に取り一口飲むと左手で口元を拭うと、真剣な面持ちで話し始めた。


「俺が即位したのは8歳の時だ」


そういえば、ミケルがこの国を出てその後を追うように前王が亡くなったって言ってたっけ。


「8歳のガキにこの国の行く末を任せられると思うか?」


「それは……、無理でしょうね」


「そう、8歳の俺にはこの国を動かすことなんて出来ない。だから後見人がついた」


「後見人?」


「政治のわからない子供の俺に代わって国の政治を動かしてくれる人だ」


8歳の子供に国の政治をさせるのは確かに無理だ。


後見人がつくのは当然といえば当然の事だけど、それとアシルが政治に口を出せないのとどう関係があるんだろう。


「俺はそれ以降、一度も政治に関わってこなかった」


「じゃ、今は誰がこの国を動かしているの?」


「後見人のエルマー・ダンバー、俺の伯父だ。政治を任すのに10年は長過ぎた。すでにこの国でのエルマーの力は想像以上になっている。そして、自分の力を維持する為に、俺に政治に関わらせてこなかった。実際、税金についての話をしたら、取り合ってもらえなかった」


それがやけ酒の原因か。


「だったら、あんたが一言クビにしてしまえば事はすむ事じゃないの?」


そうよ、いくら政治に関わってこなかったからって、この国の王なんだからそれぐらい簡単でしょ。


「無理だな。後見人が政治を降りる時は、俺が成人の歳である19の時もしくは伯父が失脚した時だ」


アシルが即位して10年ってことは、今18だから……。


「あんたが19歳になるまであと1年。だったら、1年後にその伯父さんから政権を返してもらったらいい話じゃないの?」


「1年……、それまでこの国は保たないだろう」


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