第26章
その夜、ミケルと会う為にルクの花が咲いてるあの場所へと行った。
あたしはミケルに会って、何を聞くつもりなんだろ。
会ってどうしたいんだろう。
「やあ」
あたしに声を掛けたのは、ミケルだ。
「来ると思ってった」
考えがまとまらないままのあたしは、何をどうしゃべっていいのかがわからない。
「その顔は、全部聞いたんだろ」
やさしく問いかけるミケルにあたしは頷いた。
「……あなたは、一体誰なの?」
「さぁ……、僕は誰なんだろうね」
ミケルは小さく笑うと夜空を仰いだ。
「僕は望まれて産まれてきたはずだった。だけど、アシルが産まれて状況は一変した。父は僕を可愛がってくれていたけど、周りの見る目はまるで邪魔者扱いだ。そして、記録上ではもう僕は存在しない」
「お墓にあった遺体は……」
「父は僕の処刑を言い渡す前に信頼のおける部下にあるものを捜させた」
あるもの?
「僕と背格好の良く似た子供の遺骨だよ」
それじゃ、やっぱりミケルはアシルのお兄さんなの。
「僕は処刑される前日に城から逃亡したんだ。そして、ある人の元で暮らし、12歳の時に放浪の旅に出た」
ミケルから語られる真実はとても衝撃的だった。
自分が生まれ育った場所の追われるのって、どんな気分だろう。
ミケルの今までの人生を思うと、掛ける言葉が浮かばない。
たった10歳で城を追われたミケル人生は、あたしなんかが何かを言ったところで、空しく聞こえるだけだ。
「自分でも時々わからなくなんだ、何の為に産まれてきたのかって」
そう言ったミケルの表情はなんだか悲しげだった。
「だから旅に出た。自分の居場所を見つける為に」
「それは見つかったの?」
「そうだね……、居場所は見つからなかった。でも、欲しいものは出来たかな」
「欲しいものって?」
あたしの質問には答えず、ミケルは優しく笑顔を向けた。
「ね、鈴。アシルをどうするつもりなの?」
えっ、アシル?
なんでここでアシルが出てくるんだろう。
「老師様の所に行ったり農作業をさせたり、何をしようとしているの?」
「アシルに一般的な暮らしを少しでも知ってもらえたらって思っただけで……、別に具体的な目標があるわけじゃない」
なんでそんなことを聞くんだろう。
「君はアシルの花嫁になるつもり?」
「まさか、アシルと結婚なんて考えたこともない」
ミケルは少し考えてから口を開いた。
「アシル何かさせようとしても無駄かもね」
え、それってどうゆう事?
そして、ミケルはあたしの耳元にそっと囁いた。
「身辺に気をつけて」
ご愛読ありがとうございます。
申し訳ありませんが、次回からの更新を不定期にしますので、よろしくお願いします。