第25章
もう嫌だ!
あたしが何か行動に出した所で、アシルにその気がないのならいつまで経っても状況は変わらない。
まったく、アシルはどうゆう教育を受けて育ってきたのよ。
あたしは全身で怒りのオーラを出しながら自分の部屋へと城の中を歩いていると、ルカが前から歩いてきた。
「鈴様、お帰りでしたか。アシル様は一緒ではないのですか?」
「……ちょっと、行き違いがあって……」
あたしがアシルを街中に置いて先に帰ってきた事を話すと、ルカは兵士を呼びすぐに迎えにいくように指示した。
「最近は仲良くされていたと思っておりましたのに、一体なにがあったのですか」
ルカは困ったものだといった表情をした。
別に仲良くしていた訳じゃないけど……。
「あ、そうだ。ルカに聞きたい事があったんだ。ミケルって人知ってる?」
ミケルの事をアシルに聞いても無駄だと思ったあたしは、城に帰ったらルカに聞こうと思っていたのだ。
すると、ルカの顔色がサッと変わった。
「……どこで、その名前を?」
「どこでって……」
ルカの様子を見ているとなんだか聞いてはいけない事を聞いてしまったような感じだ。
そのただならぬ雰囲気は、アシルとミケルが単に仲が悪いというだけには留まっていないように思えた。
「知ってしまったのでしたら、いつまでも隠してはおけないでしょう。鈴様、こちらへ」
ルカはあたしを誰もいない部屋へと案内した。
「これからお話する事は、他言無用にお願いいたします」
なんだか重苦しい空気の中、ルカはミケルについて話始めた。
「ミケル様はアシル様のお兄様です」
いきなりの衝撃事実にあたしは一瞬理解できなかった。
だって、一度だってアシルとミケルが似ているなんて思った事なかったから……。
それにミケルがお兄さんならなせ年上のミケルが王位を継いでいないんだろう。
「……本当に?」
「はい、ただおふたりは母親が違います」
母親が違うってことは、腹違いの兄弟ってこと?
「アシル様の母君は王妃であるエミリア様ですが、ミケル様の母君は側室のミレーヌ様です」
ルカの話はアシルとミケルが生まれる前へと遡った。
前王セルマと王妃エミリアの間にはなかなか子供に恵まれなかった。
子供がいなければ王家が滅びてしまう。
心配した側近達に言われ前王は側室迎え、その1年後にミケルが生まれた。
これで王家は安泰だと周りかホッとしたのも束の間、王妃の懐妊がわかったのだ。
そして、生まれたのがアシルだった。
前王はアシルとミケル共にとても可愛がっていたという。
しかし、前王が病に伏せるようになると周りがざわつき始めた。
前王が崩御したあと王位を継ぐのは兄であるミケルを押すものと、正室の子であるアシルを押すものとで二分し始めたのである。
内部分裂は国の根幹を揺るがしかねない。
そして、前王が下した判断は正室の子であるアシルが王位を継ぐということだった。
ミケルを王位にと押していた者達は納得出来ないと前王に詰め寄ったが、争いを恐れた前王はミケルの処刑を言い渡した。
ミケル、わずか10歳だったという。
「ミケル様が生きておられれば、20歳になっていたはずです」
ミケルが処刑された?
しかも、10年も前に……。
じゃ、あの人は一体誰?
ミケルの偽者……?
「と、ここまでは古くからいる城の者なら皆知っております。しかし、問題はここからです」
問題……?
「ミケル様の処刑は内密に行われました。しかし、本見届け役の者が付く事が無かった為、誰もミケル様の遺体を見ておりません」
遺体を見ていない。
それってもしかして、ミケルは生きているのってこと?
「遺体を見ていないミケル派の者は当然納得できず、ある日ミケル様の墓を掘り返した者がいたのです。そして、墓には……」
あたしは息を飲んだ。
真実はどうだったんだろう。
「……子供の遺体があったそうです」
あたしは深く息を吐いた。
そ、そうだよね。
遺体はありませんでしたなんて、そんな都合のいい話は無いよね。
それじゃ、あのミケルは誰なんだろう……。