第24章
社会見学は1泊2日だった為、あたしとアシルは農作業を日が暮れる前に終わり、城へと帰る為街中を歩いているとある会話が耳に入って来た。
「全部で34個だな。1個4フィルーだから125フィルーだ」
店の亭主らしき男が言うと、農作物を持って来た男の子は一生懸命手で数を数え始めたが数が数えられないらしく、いつまで経っても答えが出ない。
見た限りでは男の子は小学校高学年ぐらいなのに、計算がちゃんとできない様子だ。
「ほらよ」
亭主は男の子の計算を待つ事無くお金を男の子に差し出した。
男の子はお金を手に取ったが、店から離れようとせず手にしたお金を見つめている。
「おら、ぼうず。いつまでも店の前にいねぇでさっさと帰りな」
亭主に睨まれ男の子は渋々店を離れようとした。
「ちょっと待ちなさいよ!」
その様子を見ていたあたしは亭主へと近寄った。
「足らない分のお金ちゃんと払いな!」
「なんだお前は」
「全部で34個で1個4フィルーだったら125ではなく136でしょ」
亭主はサッと顔色が変わった。
「な、なんの事だ」
「あたしちゃんと聞いてたんだから。誤摩化さずにちゃんとお金払いなよ」
「てめぇには関係ないだろ!」
逆切れし始めた亭主だが、あたしはかまわず言い返した。
「大の大人がこんな子供を騙すなんて、恥ずかしいと思わないの」
その時亭主の右手が上がり、殴られる、そう思ったあたしは反射的に目を閉じ左腕を顔の位置まで上げ防御態勢を取った。
しかし、いつまで経っても衝撃が来る事はなかった。
不思議に思ったあたしはそっと腕を下ろし目を開けると、亭主の腕をアシルが掴んでいる。
よかったぁ。
絶対殴られるって思ったのに。
「払ってやれ」
「うるせぇ」
アシルが言ってもまだ亭主は払おうとしない。
すると、亭主の顔がだんだん苦痛で歪んできた。
アシルは軽く握っているように見えるが、かなり力が入っているようだ。
「わ、わかった。わかったから離せ」
アシルが腕を離すと亭主は渋々お金を男の子に払うと、そそくさと店の中へ逃げてしまった。
男の子がうれしそうにありがとうと言って帰っていく姿を見送った後、あたし達は再び城へと歩きだした。
「さっきは……、ありがとう」
「あの程度の事にいちいち首を突っ込むな」
アシルの言葉にあたしは足を止めた。
「あの程度の事……?」
足を止めたあたしにつられアシルも足を止める。
「なんであの程度の事だなんて言えるの?」
アシルはあたしの言っている事が理解できないようだ。
「あの男の子は本来もらえるはずのお金を騙されていたんだよ。それがどうゆう事かあんたには分からないの」
「騙される方が悪いんだろ」
アシルは面倒くさそうに言った。
「なぜあの子が騙されたのか、ちゃんと考えた事ある? この国では裕福な家庭でしか勉強ができないってクルトから聞いたわ。裏を変えせばお金に余裕のない家庭に育った子は計算ひとつ出来ないままだってことだよ」
あたしの言っている事を理解しようとしないアシルにあたしはだんだん腹が立ってきた。
「勉強を教えてもらえる人がいない子が、人に騙された事すらわからないまま人生を生きていく事がどれだけ不幸なことか、もっと真剣に考える必要があるんじゃないの!」
アシルは黙ったまま何も言おうとしない。
その態度にますます腹が立ってきた。
「あんたこの国の王なんでしょ! だったら、もっといろんな事を真剣に考えなよ。どんな子供でも生きていくうえで必要な勉強をする権利があるし、あんたはそれを提供する義務がある」
表情を変える事ないアシルが、何を考えているかわからない。
「なんで何も言わないの! いつもみたいに言い返しなさいよ!」
アシルは少し何かを考えた後、あたしの肩に手を置いた。
「帰ろう、人が集まってきている」
アシルの言うとおりあたしの声の大きさが周りに人を集め始めている。
こんな大通りで目立つ事をするべきではない事は十分分かっている。
だけど、あたしの怒りは止まらなかった。
なんでそんなに無関心でいられるの。
なんでそんなに冷静でいられるの。
あたしは肩に置かれたアシルの手を振り払った。
「あんたの態度がそんなんだから、国がどんどん悪い方向へと動いていくんだよ!」
そしてあたしは、アシルを置いて城へと駆け出した。