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第22章

クリトとソニアがいなくなった老師様の家で、まったく話の弾まない夕食を終えると、電気のないこの国の夜は早い。


そして、あたしはその時になってようやく気付いたのだ。


一緒の部屋で寝るんだということを。


部屋にベッドは2つ。


クリトとソニアがいれば男女に別れて寝ればいい事だと思っていたけど、クリトとソニアは家へと帰ってしまった。


老師様の家に他に部屋はない。


そんな事を考えていると、ふとアシルにキスをされた事を思い出してしまった。


あ、あたしてば、意識しすぎだよ!


ふたりっきりになると言っても、ちゃんとベッドは2つあるわけだし……。


アシルは先に湯浴みを終えているし、今日はよく働いたからきっともう寝てるよね。


湯浴みを終えたあたしは仕方がなく、アシルのいる部屋へと向かった。


そっと扉を開け、部屋の中を覗くと、あたしの願いも悲しくアシルはベッドの縁に腰を掛け座っていた。


しかし、何か考え込んでいる様子のアシルはあたしが扉を開けた事も気付いていない。


「アシル?」


扉を閉め、あたしが呼びかけるとようやくあたしの存在に気づいた。


「どうしたの?」


「……なんでもない」


そう言ったままなにもしゃべろうとはしない。


沈黙が重く苦しい……。


こうなったら、さっさと寝てしまおう。


あたしがもうひとつのベッドへと行こうとした時、アシルが口を開いた。


「俺をここに連れて来た目的は何だ?」


目的と言われてもなぁ……。


「目的はあるけど……、ない」


訳のわからない答えにアシルは怪訝そうな顔をし、あたしはしばらく考えてから口を開いた。


「お婆に言われたのよ。この国に来て何をしたのかって。別にこの国がどうなろうとあたしには関係ないし、何かしたところでこの国が変わるとも思えない」


ロウソクの暗い明かりだけを頼りに、もうひとつのベッドの縁に腰を掛け、手に持っていたロウソクをベッドとベッドの間にあるサイドテーブルに置いた。


「だけどね……、怪我をしてずっとベッド上にいると、人っていろんな事を考えちゃうモンなんだよね」


アシルはジッとあたしの話を聞いている。


「お婆の話を総合すると、どう考えてもこの国が変わる事が、あたしが元の世界に帰る事の条件なのかなぁって。それだったら、いつまでもお城で無駄に過ごしているより、自分の出来る所から何かしようかと思ったの。それで、褒美をくれるっていうんだったら、あんたにも協力してもらおうかなって」


アシルはまだ意味が分かっていない顔をしている。


「つまり、この国の根本を変えるにはあんたに一般市民の生活を見てもらうのが一番だと思ったのよ。それがあたしの目的。でもそんなに簡単にいくとも思えないからあってないようなものだよ。それに、素直に来てもらえるとも思ってなかったし」


「俺に、何か出来ると思うか?」


意外な言葉にあたしは一瞬言葉を失った。


「あんた王様なんでしょ。何か出来るのかではなくて、やらなきゃいけないんだよ。でなきゃ……、あたしが元の世界に戻れないじゃない。それじゃ困るのよ」


「そんなに、帰りたいのか」


「あたしまえじゃない! いきなり有無も言わさずこの国に連れてこられたのよ」


誰も知らない世界にひとり放り出される事がどんなに不安だったかなんて、きっと実際体験した人じゃないと理解なんて出来ないと思う。


あたしが黙ってしまった為、また沈黙になってしまった。


これ以上話す事が無くなってしまったあたしは、もう寝てしまおうとサイドテーブルに置いたロウソクをふき消した瞬間、アシルがあたしの手首を掴んだ。


暗闇の中で手首を掴まれ、あたしの心臓が高鳴った。


な、何!?


「お前は本当に伝説の女なのか」


その質問にあたしは慎重に答えた。


「……違うよ」


また、沈黙が続く。


「あたしは伝説の女性なんかじゃない。ただの一般市民で非力な人間にすぎない」


捕まれた腕を解こうとしても、アシルの手の力が強く解くことが出来ない。


それとともに心臓の鼓動も速くなる。


「この国にとって、伝説の女性がどれほどのものか知らないけど、そんな不確かなものより、あんたのほうがよっぽどこの国の為になにか出来ると思うよ」


あたしは速くなる鼓動に気付かれないよう冷静を装う。


ようやくアシルは掴んでいたあたしの腕を離した。


よかったぁ。


このまま離してくれなかったらどうしようかと思った。


「あたしもう寝るね。久々に体動かしたから疲れちゃった」


さっさとベッドに潜り込んだ。


「お休み」


しばらくするとアシルが自分のベッドに横になった気配がした。


アシルに捕まれた手首にまだ感覚が残っている。


心臓の鼓動も速くなったまま落ち着こうとしない。


その夜、あたしはなかなか寝付けなかった。



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