第18章
3日程別荘でゆっくりした後、あたしは城へと帰って来た。
体はかなり良くなったけど、心配性のカリナがベッドから出る事を許してくれなかった。
元々体育会系のあたしにとっては、時間を弄ぶばかりだ。
暇だなぁ。
そこへ部屋に響いたノックの音。
入って来たのはアシルだった。
アシルの顔を見た途端、煎じ薬を口移しで飲ませてくれたことを思い出してしまい、無意識にアシルの唇に目がいってしまう。
あたしってば、何を意識して見てんのよ。
「なに?」
そんな自分を隠すように、ぶっきらぼうに言った。
「元気そうだな」
「あんなことで簡単に死ねないわよ」
強がりを言うあたしを、アシルはフッと笑った。
アシルがあたしに対して笑ったのはこれが初めてだ。
その笑顔にあたしの心臓が、ドキッと高鳴った。
「それだけ元気があれば大丈夫だな」
「な、何の用?」
高鳴った気持ちを隠す様に言ったぶっきらぼうな言葉に、いつもなら攻撃的なアシルだが、今回は気にしている様子はない。
「なぜ、危険を冒してまで俺を庇った?」
なぜと聞かれても……、危ないと思った時に反射的に体が動いてしまっただけで、特に理由なんかない。
「単に見積もりを間違えたのよ。あんたを押し倒した後、自分も避けきれると思ったの。ただ、あんなに矢が早く来るとは思わなかったってゆうか……」
アシルは呆れたように顔を横に振った。
「まったく、本当に規格外な女だ」
規格外とはちょっと失礼だな!
「お前に、褒美をとらせる」
「褒美?」
「ああ、俺の、王の命を救ったんだ。褒美をとらせるのは当然だろ」
褒美……ねぇ……。
あたしは少し考えていたが、特に思いつかなかった。
「いいよ、別に。褒美が欲しくてやったことじゃないし」
「すぐに決める必要は無い。なにか思いついたらその時に言え」
いつもよりやさしいアシルになんだか調子が狂う。
「だが……」
そう言って口を噤んだアシルだったが、少しして口を開いた。
「前に言った、お前を元の世界に戻すというのは無理だ」
えっ、そういえば、そんな約束したっけ。
覚えていてくれてたんだ。
「お婆には掛け合ったが、すぐに帰す事は出来ないと言われた。あの術は、呼んだ本人でないと元の世界には戻せないんだ」
意外な言葉に驚いた。
わざわざお婆に掛け合ったの?
「なんで……、なんでそこまでしてくれるの?」
ついこの前までは、とても友好的な雰囲気とはかけ離れていたのに。
「さぁ、なぜかな」
しばらく黙っていたアシルは、左手をベッドの縁に置いた。
さっきよりもより顔が近付き、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
なんでそんなに不用意に近付くのよ!
心臓に悪いわ!
「どうした、顔が赤いぞ。また熱がでてきたのか」
そう言うとアシルの右手が顔に近付いて来た。
「何でもない、大丈夫よ」
あたしは慌てて顔の前に両手で壁を作った。
だってあんたのせいじゃない。
しかし、アシルはそんなあたしの手を取り握った。
キァー、お願いだからそんなことしないで!
「熱はなさそうだが……、帰って来たばかりで疲れたか」
アシルはあたしの手を握ったままだ。
「そ、そうかもね」
「なら、ゆっくり休め」
アシルはあたしの手を離すと、優しく髪を撫で部屋を出て行った。
あれ、この感覚……。
なんだか覚えがある気がしたが、それがなんだったのか思い出せない。