第15章
結局あたしは疲れもあってか、ソファでもグッスリと寝た。
朝早くに迎え来たカリナは、一番最初に謝った。
「昨夜は申し訳ございませんでした」
「いいよ、もう」
誰の差し金か知らないけど、きっと断れなかったんだと思う。
それでも謝るカリナをなだめながら、あたしは朝食の後、アシル達と狩りに出かけた。
しかし、狩り場に着いたところで、狩りをやった事もないあたしは、しばらくすると飽きてきてしまった。
そんなあたしにルカは気を使って、馬の乗り方を教えてくれた。
馬に乗れないあたしはいつもルカと一緒に乗せてもらっていたが、少しずつひとりで乗れるようになると、だんだん楽しくなってくる。
歩かせては止まったり、軽く駆け足をさせた時には振動の凄さに驚いたりして過ごした。
ちょうど一段落ついた頃に、獲物を追いかけて別行動をしていたアシル達が帰ってきた。
どうやら獲物に逃げられたらしく、何も捕ることが出来ずに帰って来たようだ。
なんだか不機嫌そうにしているアシルを見ると目が合い、あたしの心臓がドキッと跳ね上がり、目を逸らした。
なに意識してるんだろう。
「鈴様、お顔が赤いですが、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ」
心配そうに言ったルカに、あたしは慌てて首を横に振った。
まさか、アシルと目が合って昨日のキスの事を思い出したなんて言えない。
あたしが必死で平常心を保とうとしたその時、少し離れた木の影から人相の悪そうな5人が出て来た。
明らかに友好的ではないその態度に、あたし達の中に一気に緊張が走った。
「鈴様、わたしのそばを離れないでください」
そう言うとルカはあたしを背中に隠し、剣を抜くと同時に男達はあたし達に襲いかかってきた。
なに、なんなの、この人達は!
しかも、こちらの人数は同じ5人とはいえ、内ひとりはあたしだから人数的にはこっちが不利だ。
剣を交える音があちらこちらから響いている。
あたしは必死でルカのそばを離れないようにしていたが、しばらくするとルカが相手の脇腹に剣を突き刺し、勝敗がついた。
血しぶきが飛び、ルカは返り血を浴びている。
あたしは初めて人が刺され、その場に崩れ落ちて行くのを見て、口元に手をやり小さく悲鳴を上げた。
だって、そうでしょ。
人が殺される所を見るなんて、元の世界じゃありえない。
一体この世界の常識ってどうなってんのよ!
周りを見ると、襲ってきた他の2人も地面に倒れている。
体制が不利だとわかると、男達は引き上げ始めた。
しかし、逃さず追い始めたアシル達を目で追うと、少し離れた場所にある草影が揺れた。
よく見ると、草影に隠れて弓矢を引いている男がアシルを狙っている。
しかし、アシルは男達に気を取られ気づいていない。
危ない!
あたしはルカから離れると同時に弓矢が男の手から離れる小さい音がし、アシルを思いっきり突き飛ばした。
その瞬間、左肩に大きな衝撃と共に急激な熱さを感じ、その次に激しい痛みが襲ってきた。
右手で左肩をそっと触ると、ヌルっとした感触を感じた。
掌を見ると真っ赤な血で染まっている。
なに、これ……。
自分に起こっている現状がすぐには理解できない。
もしかして、弓矢が刺さったのかな。
「何をやっているんだお前はっ!」
薄れゆく記憶なかで、アシルの怒鳴り声が聞こえる。
あぁ、あんたってこんな時でも優しくないのね。
そして、あたしはそのまま意識を失っていった。