第11章
あたしは勢い良く扉を押し開いた。
「お婆! 居る?」
アシル達と別れ、あたしはまっすぐお婆の家へと向かった。
「あいかわらず騒がしい」
お婆は奥の部屋から迷惑そうな顔をしながら姿を現した。
「いつになったらあたしを元の世界に戻してくれるの!」
「勢い良く来たと思ったら、なんじゃ、そんな事か」
そんな事って……。
あたしにとってはすっごく大事な事なのに、なにその他人事のような言葉は!
「言っただろ、すぐには返せんと。それにおぬしはまだここに来た目的を果たしておらんだろうが」
「それはそっちが勝手に決めた事で、あたしには関係ないでしょ。それに、あんな性格の悪いヤツ、とてもじゃないけど無理!」
お婆はあたしに背を向け、何かの作業をし始めた。
「だいたい、この世界を救うのがなんであたしなわけ? あたしなんかにそんなこと出来るわけないでしょ」
そうよ、そもそもなんであたしなんだろう。
黒い瞳と髪を持つ人なんて、アジア人ならほとんどの人がそうじゃん。
あたしである必要はない。
お婆は作業を終えると、あたしの前にコップを差し出し、あたしは反射的にそれを受け取った。
コップの中身は緑色をしていて、お茶というよりは抹茶のようだ。
「とりあえず、それでも飲め」
コップの中身が見慣れた色だったことから、あたしは言われるがまま一口飲んだ。
げっ! まずっ!
あまりのまずさにあたしは何度かむせた。
「なによ、これ……」
かなり勢いの下がったあたしがようやく抗議の声を出すと、お婆は楽しそうにニヤリと笑った。
「どうもおぬしは短気な所があるようだからな、おぬしの為に特別に作ってやった漢方じゃよ。安心せい、毒は入っとらん」
当たり前だよ!
そんなモン入れられてたまるか。
だいたい、これは人に出していいもんじゃないでしょ。
あぁ、ホントマズイ……。
すっかり意気消沈したあたしは、近くにあった椅子に腰を下ろした。
「ようやく大人しくなったの」
お婆って実力行使に出るタイプなのね。
気をつけよう。
「おぬしは、運命という言葉を知っておるか?」
「そりゃ、まぁ……」
「あの術は、おぬしを選んで呼び出したんではない。この国を救える人物を呼んだんだよ」
やっぱり、あたしじゃなくてもいいってことなんじゃ……。
「術をかける時、この全宇宙空間全てに対して呼び掛けた結果おぬしが現れた、それが運命というものだ」
あまりにも簡潔した話で意味がサッパリわからない。
「それって、どうゆう意味?」
「おぬしのその頭はただの飾りか。もう少ししっかり頭を働かさんか」
だって、わからないんだからしょうがないじゃん。
「運命とは、天命によって最初から定められた運命の事。すなわち、おぬしがこの世界に来た事、それこそが運命というもの」
ここへ来るとこは最初から決まっていたこと?
そんな事言われてはいそうですかって、納得出来るわけない。
あたしは特に何かが出来るわけじゃないし、ただの女子大生ってだけなのに。
「おぬしはここへ来てから何をした?」
あたしが納得出来ない顔をしていると、お婆が問いかけた。
何をって……。
「何もやっていない者が最初から出来ないと口にするな。本当におぬしが何も出来ないのなら、最初からここには呼ばれてはおらんだろうよ」