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第1章


ようやく書き始めた第3作目の作品です。

最後までおつきあいいただけると、うれしいです。

「ねつ、お願い! 今回だけでいいから協力して欲しいの」


「そう言われても……、もう2年以上やってませんし、急にやったところで足手まといになるだけですよ」


「2年のブランクなんて、あなたならちょっと練習したら感なんてすぐ戻るわよ。なんたって、高校インターハイ優勝者なんだし」


鈴は困ったように、頭を掻いた。


広池鈴ひろいけすず大学2回生、20歳。


剣道団体戦の中堅で出る予定だった選手が階段から落ち、腕を骨折してしまったらしく、現在ひとつ上の先輩から1週間後にある剣道の練習試合に出て欲しいと、お願いされている所だ。


「私に頼まなくても、他にも部員はいるじゃないですか」


鈴が通っている北斗大学の剣道部は県内でも強豪校で有名だ。


その為、選手層は必然的に厚くなる。


わざわざ鈴に練習試合に出て欲しいと、お願いにやってくる必要はないはずだ。


大学入学当初から、高校インターハイ優勝という経歴を何処で調べたのか、何度も入部の勧誘をされている。


もちろん一度もOKしたことはない。


「もちろん、うちの部は他の大学より優秀な選手が集まっているわ。だけど、相手は宿敵、南都大学よ! たとえ練習試合とは言え、負ける訳にはいかないわ! その為にはあなたの力が必要なの」


「何度も言ってますが、もう剣道をするつもりはないんです」


そう断りを言って歩き出した鈴の横を、平行するように先輩も歩き始める。


「あなた程の実力の持ち主が、このまま剣道をやめてしまうなんて、もったいないわ。剣道界の大きな損失よ!」


まったく、しつこいな。


何度断っても勧誘に来る。


剣道界の損失なんて、あたしの知ったこっちゃない。


力強くしゃべる先輩を横目に、鈴は少し歩く速度を速めた。


「申し訳ないですが、他をあたってください」


そう言うと、先輩は足を止めたが、鈴はかまわずそのまま歩いた。


「私はあきらめないわよ」


後ろから聞こえてくる声に答える事なく、鈴は次の授業がある第3校舎に入った。


「なに、また勧誘されてたの?」


廊下を歩いていると、そう声をかけてきたのは同じ学部の同級生、南沢祥子だ。


「よっぽど、アンタが欲しいのね。1回ぐらい出てやれば」


「ヤダ! あたしの青春はすべて剣道漬けだったのよ。大学に入ったら、絶対にキャンパスライフを謳歌するって決めてたんだから」


そうよ、祖父が剣道教室をしていたことから、物心ついたころにはもう竹刀を振っていたのよ。


そのせいで、あたしの人生は剣道一色だったんだから。


せっかく親元を離れたんだから、もう剣道なんてまっぴら。


「あんな汗臭い事してたら、ステキな恋だって逃げちゃうわよ」


「ステキな恋ねぇ。剣道をしてなくてもステキな恋が出来てるとは思えないけど?」


ぐっ!


それを言われると、返す言葉がない。


大学に入ったら、かっこよくてやさしい彼氏を作るんだって思っていたのに、告白すればことごとく振られる日々……。


現在、10連敗を更新まっしぐらの彼氏いない暦20年。


「あたしの良さがわかんないなんて、みんな見る目なさすぎなのよ!」


「そう言うのを何ていうか知ってる? 負け惜しみっていうのよ。しかも、あんたの好きになる相手って、大学で人気のある人ばっかりじゃない。鼻っから相手にされる訳ないでしょ」


いいじゃない、ちょっとぐらい夢見たって。


そんな言い合いをしながら、校舎の2階へと最後の階段を上りかけた時、グラッと目の前が揺れた。


一瞬、目眩がしたのかと思ったが、次の瞬間、下から突き上げるような揺れがやってきた。


地震!?


突然の地震に周りからは悲鳴が聞こえてきている。


激しい横揺れに、階段の手すりに捕まろうとしたがその手は空を舞い、あたしの体は後ろに傾いた。


やばい、このままだと転げ落ちる。


ああ、きっと痛いだろうな。


そんな冷静な部分が頭をよぎり、受け身の体制をとろうと階段の踊り場を見た時、あたしは目を疑った。


そこはいつのも踊り場ではなく、真っ暗なブラックホールが広がっていたからだ。


なっ、なによ、これ。


どうなってんのよ!


しかし、つかまるものが何もないまま、なす術無くあたしの体は宙に浮き、体が引っ張られるようにブラックホールへと落ちていった。


えぇ! あたし一体どうなっちゃうのぉ。



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