“ゆうしゃ”になんかなりたくなかった
[ピーター、お前は人間の子だよ]
お母さんはいつもそうボクに言う。
「アウ?(人間って何?)」
ボクはお母さんに聞いてみた。
[人間は私達を残虐に殺す奴等だよ]
ボクは、何も言えなかった。
ある日、変な臭いがした。
クンクン。血の臭いだ。
[ピーター、隠れなさい。絶対出てきてはダメだよ]
ボクはお母さんの言う通りに家の中に隠れた。
ガウルル、、、ガウ!ギャン!!
家の外が静かになった。
ちがう、よくわからない音だけになった。
ボクはそーっと外を覗く。
「アーウ!(お母さん!)」
ボクはお母さんに向かって駆け出した。
[出てきてはダメと言ったでしょ]
「アーウ、アウアウ!(お母さん、なんで血だらけなの!)」
ボクはお母さんに辿り着く前に捕まった。
「アウ、アーウ!(やだ、お母さん!)」
[ピーター、お前は人間の子だよ。人間と生きなさい]
お母さんはそのまま動かなくなった。
ボクは“こじいん”って所で人間に捕まって生きている。
よくわからない音は人間の“ことば”だった。
「ピーター、君はいつまで経っても言葉を覚えられないね」
しゃべれないだけで言ってる事は解るよ。
「魔物に育てられた子なんて、どうして良いのか分からない」
みんなボクを“まものの子”って言う。
お母さんは“まもの”って言う生き物なんだって。
ボクは人間の子じゃなかった。
ボクは“こじいん”で暮らすようになって、ご飯を“すぷーん”を使って食べること覚えた。
「そうだよ。手掴みで食べるのは動物と同じだからね」
この人間はボクの“ほごしゃ”で、“しんぷさま”って言うんだって。
ボクはいつも日向ぼっこをして過ごしている。
ふと外を見ると“こじいん”の前に“ばしゃ”が止まった。
中からキラキラした人間が出てきた。
「大聖堂からの遣いだ。神父は居るか」
「はい。私がここの神父です」
キラキラした人間は“しんぷさま”と中に入っていった。
「ピーター、お前は勇者に選ばれた。これから王都に行きなさい」
ボクは“ゆうしゃ”って言うものになった。
ボクはキラキラした人間と“おうと”にやってきた。
キラキラした人間はボクの事が嫌いみたいで、全然話しかけて来なかった。
「着いたぞ。魔物の子」
ボクはすんごい大きな家に連れて行かれた。
「神官長、戻りました。此奴がピーターです」
「うむ。御苦労。左手の紋章は確認したか?」
「はい。確かにありました」
「そうか。では、手筈通りに」
「御意」
ボクは左手を見た。
この色形が“もんしょう”って言うんだ。
ボクは“せいけん”を持たされて旅に出た。
一緒に人間が4人着いてきた。
ボクの“しごと”は“まもの”を殺す事だって。
ボクはやっぱり人間だった。
お母さんの言ってた通りで悲しかった。
ボクは“まもの”に出会うと人間に“せいけん”を持つ様に言われる。
「あれを殺せ」
“せいけん”はボクの体を勝手に動かして“まもの”を殺す。
[何も悪い事をしてないのに殺すのか!]
[なんで、見た目が違うだけで殺すの!]
[最期に一目、娘の顔が見たかった、、、]
「アアウ、アアウ(ごめんなさい、ごめんなさい)」
ボクが泣いても喚いても“せいけん”は“まもの”を殺した。
ボクたちは“まおう”を目指して旅をしてるんだって。
“まおう”は悪い奴で“まおう”を殺せばボクの“しごと”は終わりって言われた。
でもボクはもう何も殺したくなかった。
夜寝るときは人間が誰か必ず起きていた。
ボクはどうしても逃げたかった。
ある日のご飯にお母さんが絶対食べてはいけないって言ってた物が入ってた。
ボク以外の人間はそれを食べた。
夜、苦しんでいる人間と“せいけん”を置いてボクは逃げた。
必死に逃げた。
ボクは人間から逃げ続けた。
ある日、真っ黒な人に出会った。
ボクは分かった。人間じゃないって。
「アウ、アアウアウ!(お兄さん、ボクを助けて!)」
ボクは泣きながらお兄さんにしがみついた。
お兄さんは何も言わなかったけど、ずっとボクの頭を撫でてくれた。
ボクはお兄さんと一緒に暮らした。
ボクはボクの“しごと”をお兄さんに教えた。
お兄さんは悲しそうな顔をしたけど、何も言わずに頭を撫でてくれた。
ずっとこのままお兄さんと一緒に暮らせるといいな。
ボクは高い塔の上で日向ぼっこをして過ごしている。
風に乗った人間の臭いを嗅いだ。
一緒に旅をしてた奴等だ。
ボクは慌ててお兄さんに教えに言った。
ボクが逃げ出す前に人間に見付かった。
「そいつが魔王です。殺しなさい」
人間はボクに“せいけん”を投げつけた。
ボクは咄嗟に“せいけん”を握ってしまった。
体が勝手に動く。
ボクは泣き喚いた。
“せいけん”はお兄さんの胸を貫いた。
ボクの体は自由になった。
「アウ、アアウ(お兄さん、ごめんなさい)」
[ピーター、これで自由だ。もう誰も殺さなくて良いんだよ]
お兄さんはそう言って、ボクの頭を撫でてくれた。
お兄さんの手から力が無くなって、動かなくなる。
「アオーン!」
ボクはその場で泣き続けた。
後ろから人間の気配がした。
ボクはお兄さんにしがみついた。
ボクはたぶん、殺された。
最後までお読み頂きありがとうございました。
2018.08.24