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探しものはミイラですか?

「生霊を八柱神様に喰われたことで、呪いの主も相当なダメージを受けたはずじゃ。アイは当面は大丈夫じゃろう。まあ、数年はな」

 もともと年だし、そう長くファラオを続けられるような身ではない。


「邪神の奴めは生霊どもに便乗して王宮を乗っ取るつもりだったんじゃろうのう。こちらはもうしばらく警戒が必要かもしれんの」

「またアイが襲われるかもしれないんですか?」

「あるいは邪魔したワシらに仕返しに来るかもな」



 王宮を出て、まばゆい陽光に照らされる下、クフ王とツタンカーメンが庭園を横切っていた時だった。

 高い塀で守られた、色とりどりの花の咲く庭園。

 そんな場所に何故かいきなり、強烈な砂嵐が吹きつけてきた。


いたたたたっ!」

 ツタンカーメンは慌てて霊体の状態を切り替えて、砂粒が霊体をすり抜けるようにした。

 これでとりあえず痛くはない。

 けれど視界は完全に砂に覆われてしまった。


 砂嵐が止んだ時、クフ王は居なくなっていた。


 おどろおどろしい笑い声に、ツタンカーメンが視線を上げる。

 声の主の姿は見えない。


 ただ、布を巻かれた棒切れのようなものが、何本も空に浮いて、王宮の屋根よりも高いところをグルグルと回っていた。

 それがバラバラにされたクフ王のミイラなのだと、ツタンカーメンが気づくまでには時間がかかった。


「そんな……先輩!!」

 浮遊して近づこうとするツタンカーメンを風が押さえつける。

 霊体でも逆らえない、霊的な風。




 笑い声が、ようやく止んだ。

「お人好しのオシリスは、神々の王の座が務まる器ではなかった」


 今度は、語りだした。

「豊穣神たるオシリスはエジプトを豊かにしたが、豊かさゆえに起こる争いを止めるすべを持たなかった」


 姿を見せぬまま、声だけが響く。

「だから我輩の時代となったのだ! 争いの神、セトの時代に!」


「エジプトのような大国を統べる王に、争いの神はふさわしくない! ましてや皆に愛されているオシリス神を、自分の気に入らないからって騙まし討ちで殺すような神なんて!」

「クフはオシリスの力を使い、我輩を妨げた! 故にクフをオシリスと同じ目に遭わす! 神話の再現を見るが良い!」




 邪神セトはオシリス神を棺に閉じ込めてナイル川に流した。


 オシリス神の妻のイシス女神は、オシリス神の遺体を見つけ出した。


 それに気づいた邪神セトは、オシリス神の遺体をバラバラにしてエジプト中に撒き散らしてしまった。




 同じくバラバラにされたクフ王のパーツが、ナイル川のほうへ飛んでいく。

 しかしそれらは水面に落ちることなく弾き返された。

 ツタンカーメンの位置からは何が起きたのかわからなかったが、川の神ハピが邪神に抵抗したのだ。


「おのれ!」

 邪神セトが突風を起こしてさらに弾き返し、ミイラのパーツが町中に散らばる。

 そして……どうやら邪神セトがハピ神に襲いかかったらしい。

 誰か別の神がハピ神の助けに入ったらしき声が聞こえた。




「ふえぇっ……クフせんぱぁい……?」

 ついさっきまで隣を歩いていた人がどうなってしまったのか、ツタンカーメンにはなかなか受け入れられなかった。


「せんぱあああい!」

 いくら叫んでも返事はない。

 遠くに邪神と誰かの戦いの音が聞こえるだけ。



「先輩……死んじゃった……?」

「ミイラはもとより死んでいる」

 耳もとで声がして、ツタンカーメンは跳ねるように振り返った。


「アヌビス神!?」

 犬の頭を持つ、ミイラ作りの守護神。

 ツタンカーメンも死にたての頃にずいぶんお世話になったおかたである。


「クフ王のパーツは全てテーベの町の中に落ちた。なかなか厄介な状況だが、エジプト中に散ったオシリス神の時よりかはマシだ。

 ツタンカーメンよ、クフ王のパーツを集めてきてくれ。私はイシス女神と協力して復活の儀式の準備をしておく」


「邪神は?」

「ホルス神に任せよう」

「わかりました!」






 ツタンカーメンは都へと飛び出した。

 けれど。

(どこを捜したらいいんだろう?)

 テーベは広い。


「おーい! こっちじゃ、こっちじゃ!」

 民家の戸口に飾られていた、小人の像が手を振った。

 ベス神。

 ブサメンなせいで貴族にはあまり人気がなく、大きな神殿があるとの話も聞かないが、愛嬌があって庶民には人気の守り神だ。


「あそこの屋根にミイラの足が引っかかっておるぞ!」

「どこどこ?」

「あそこじゃ! あれ、あれ!」

「ほんとだ! ありがとう!」


 ベス神の像はそこら中にあり、行く先々でツタンカーメンに、クフ王のパーツの場所を教えてくれた。


 右の上腕はパピルスの工房で、パピルス紙の材料の、パピルスという植物の茎の束に紛れ込んでいた。


 左の前腕は漁師の家で、魚の干物と一緒に干されていた。


 頭部は壷屋の棚に並んでいた。


 左手首はアクセサリーに加工する前の子安貝の箱の中に。


 右足首は鶏小屋に。


 胃や肺や肝臓や腸は、壷屋で出会ったカノポス四兄弟が見つけてきてくれた。

 この四兄弟は、ミイラ作りの際にミイラの内臓を守護する神様だ。


 こうしてクフ王のパーツのほとんどがそろった。

 だけど一番大切な心臓だけは、いくら捜しても見つからなかった。 


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