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テーベは今日もアメン神

 アンケセナーメン達の跡をつけていった神殿で、またまた柱の陰に隠れながら、ツタンカーメンとクフ王はアメン神の像を見上げた。

 アメン神は筋骨たくましい男性の神で、頭に大きな羽の飾りをつけている。

 神話によっては羊の頭とされることもある。


「ふむぅ」

 クフ王が首をかしげた。

「未来の神殿でも思ったことなんじゃが、アメン神はワシの時代にはそんなに力のある神ではなかったんじゃがのう」


「こっちの時代ではすっごく重要な神様なんですよ。だからおれの名前はツタンカ“アメン”だし、アンケセナーメンはアンケセナ“アメン”だし」


「ワシの時代じゃ神々の最高位におられるのは太陽神ラー様じゃった。これはいくら時が経っても変わらんと思っとったんじゃがのう」

「今だってそうですよ。アメン神はラー神と合体してアメン・ラー神になれるんです。

 前にですね……おれが生まれる何百年も前ですけど、エジプトがアジアから来たヒクソスってやつらに支配されてた時期があって、そいつらを追っ払ったのがアメン神なんです」


「そりゃすごい。ならばきちんと礼拝せねば」

「ちょ! 先輩! 今、出て行ったら……」

「わーっとるわい。後でじゃ、後で」

 とかやっているうちに、クフ王の足が、通路脇に並べられた燭台に触れてしまった。



「ぎゃーっ!?」

 包帯が燃え上がる。

「わーっ!!」

 ツタンカーメンがとっさに花瓶の水をぶっかける。


 それで火は消えたけれど……


「そこに居るのは誰です!?」

 女神官の鋭い声が響いた。



 貴族の娘達がアンケセナーメンを守るために取り囲む。

 けれど王妃はその輪を振り解いた。


「つーたん! つーたんなの!?」

 二人が隠れる柱に駆け寄る。


 だけどそこには、自在に姿を消せるツタンカーメンはもとより、クフ王のミイラさえもなかった。

 神殿の主であるアメン神が力を使い、ミイラを透明にしたのだ。



「しっかりなさいまし、アンケセナーメン様」

 中年の貴婦人が王妃の肩を抱いた。

「偉大なるツタンカーメン王は、アアルの野でも神々から重要なお役目を与えられているはずです。こんなところをほっつき歩いているわけございませんよ」


「そう……そうですよね! つーたんは栄光あるアアルの野で、先の偉大なファラオ達とともにエジプトを守っているはずですものね!」

 アンケセナーメンが顔を上げた。


「賢明なるツタンカーメン王は、今頃はきっと太陽の船の舵取りをしておられますわ!」

「いえいえ、勇猛なるツタンカーメン王は、邪神との戦いに先陣を切って挑んでおられるはずです!」

 取り巻きの娘達が口々に想像の中の王を称える。


「そうよねっ! つーたんは光り輝く神々の神殿でお菓子食べ放題で楽しんでいるはずよねっ!」

 さすがにアンケセナーメンはつーたんの望みを言い当てていた。

 ツタンカーメンは、自分は何でこんなところでおじじのおもりをしてるのだろうと、軽くいじいじしてしまった。



 クフ王が咳払いをした。

「そろそろアイとやらのところへ行くとするかの。アメン神様、今しばらく力をお貸しくだされ」


 出口へ近道しようとして、クフ王は壁に激突した。

 ミイラは透明になっているだけで、壁抜けができるようになったわけではないのだ。





 長い廊下を歩いてファラオの執務室へ。

 風に紛れて布扉をくぐり……

 ツタンカーメンとクフ王はいきなり悲鳴を上げた。


 執務室は悪霊の群れで満員御礼。

 書き物机のところに居るはずのアイは、すっかり埋もれてしまっていた。



 霊の姿は基本的には生きている人間には見えないので、アイも家臣も気づいていない。

 それらは血を吸う虫や、毒を持つカエルや、穀物を荒らすネズミなど、人間に害をなす生き物の姿を借りていた。



 ムカデの姿の悪霊を、クフ王がガッと踏み潰した。

「どれも生霊のようじゃな。誰かが……かなりの人数が、アイの奴めに呪いをかけておる」

「そんな! じーちゃんは……アイ王は……こんな呪われるような悪政を敷いて……っ!?」

「落ち着け! とにかくまずは生霊どもを退治するぞい! ワシゃ魔除けの品を探してくる!」

「っ! わかりました! じゃあ、おれは……」



 遠ざかるクフ王の足音を聞きつつ、ツタンカーメンは両手を掲げて神に祈った。

「助けて! アメン神!」

 さっき逢ったばっかりの、最初に浮かんだ名前を叫ぶ。



「けろけろろ~ん!」

 間の抜けた声とともに現れたのは、カエルの頭の神だった。

「へ?」

「呼ばれたから来たけろ~ん」

 アメン神と同じ名前の別の神様がおいでなされた。



「ついでにアタシも来たにょろ~ん」

 カエルのアメン神と対になる、ヘビの女神のアメネトであった。


「おいらも来たけろ~ん」

「にょろ~ん」

 ヘフとヘヘト。


「みんなそろってるけろ~ん」

「にょろ~ん」

 ケクとケケト。


「おやおや、ごちそうがいっぱいだけろ~ん」

「にょろ~ん」

 ヌンとネネト。



「「「「「「「「いただきまーすっ!」」」」」」」」



 ペローン、ぱくーん。

 カエルの頭をした四人の男神と、ヘビの頭の四人の女神。

 八名一組の八柱神は、虫やカエルやネズミを模した生霊を、ぺろぺろパクパク食べ始めた。


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