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ファラオをピラミッドに連れてって

 光の扉が閉じ、消える。

 クフ王は硬い床にしりもちをついた。

 そこは真っ暗闇だった。


「ここはどこじゃ?」

「わかりません」

「時間移動は?」

「してないはずです」


 ツタンカーメンの腰布の衣擦れを聞きつつ、クフ王はしゃがんだまま手探りで壁に触れた。

 石材。

 古代エジプトでは王宮も民家もだいたいは日干し煉瓦で建てられているけれど、ここの壁は花崗岩だった。


(神殿か、あるいは墓か……)


「せんぱーい! 何か変な感じですー! ここの壁、すり抜けられないわけじゃないんですけど、妙な抵抗があるっていうかー……」

「霊的な壁が張られておるのかもしれんのう」

「そうみたいですー!」


 衣擦れが上へ移動する。

 ツタンカーメンが浮遊したのだ。


「天井が結構、高いですー。見えないからハッキリとはわかんないけど、普通の家の高さじゃないですー。ちょっと向こう側、覗いてきますねー」

「うむー。気をつけて行くのじゃぞー」


 その直後、クフ王は壁を探る指に違和感を覚えた。

(壁の上縁? いやいや、これは壁ではないな……)

 ひざで床を這いながら、それの大きさ、形を確かめていく。


(風呂桶のような……いや待て、これは……)

 腕を伸ばし、中を探る。

 クフ王はポンとひたいをたたいた。


(何ということじゃ! これはワシの石棺じゃ! ここはワシのピラミッドではないか!)

 あごをなでる。


(ははーん。さてはツタンカーメンめ、ワシのピラミッドに憧れるばかりに、無意識にここに飛んでしまいおったんじゃな)

 楽団の練習の合間に自慢話を散々聞かされたせいである。


(それにしても参ったのう。ワシゃテーベに行きたいのに、ピラミッドに連れ帰ったと気づいたら、あやつめ、面倒くさがって旅を終わりにしかねぬぞい)




 ほどなくしてツタンカーメンが戻ってきた。


「ナンか怖かったですーっ」

「何がじゃ?」

「天井がですね、天井をすり抜けたと思ったのに、また天井なんですよー。

 低い天井がいくつも重なってて、あんまりにも同じのが続くから、もしかしてループする迷路に入っちゃったんじゃないかみたいに思っちゃって、それで戻ってきたんですー」

「ループする迷路?」

「ちょっと前にトート神が未来で見てきたとか言って作ってたんだけど、あれはヤバイですよー」


 玄室の天井は未来では重力軽減の間と呼ばれ、ピラミッドが自重でつぶれないようにするための空間だとされている。




「あまりウロチョロすると、とんでもない罠が仕かけられておるかもしれんぞぉい」

 とか言って脅してみる。

 もしもツタンカーメンに勝手に外に出られたら、ここがどこか一発でバレてしまう。


「うううー。光の扉も出てきてくれないですー。さっきは使えたのにー」

「やはりここには特別な力があるようじゃのう」

 世に言うピラミッド・パワーである。


「どうしましょー?」

「どうしようもないのう」


「先輩! 今の聞こえました!? どこからか唸り声が……」

「風の音じゃろ。通気孔があるんじゃ」

「ああ。なら少なくとも窒息死する心配はないですね」

「案ずるな。ワシらはすでに死んでおる」


「これやっぱり唸り声だ! さっきと違うとこから聞こえた!」

「通気孔は二つあるんじゃ」

「……通気孔なら外に通じてますよね? 通れるだけの幅があれば……」

「毒蛇が潜んでおるかもしれんな」

「うううううううー」


 ツタンカーメンの様子に、クフ王はニヤニヤ。


 けれどクフ王もこのままずっとこうしていたいわけではない。


「ここはいったん、冥界に戻って出直してみるかの」

「どうやってです?」

「神に祈るんじゃ」


 クフ王は暗闇の中で両手を掲げた。


 儀式の始めは、太陽神ラーへの賛美の歌。

 それから大地の神ゲブに呼びかけて、秘密の門を開くよう願う。

 辺りが光に包まれて、次の瞬間、二人は死後の楽園・アアルの野に居た。






 咲き乱れる花々。

 地上の何倍もの大きさに育った農作物。

 白壁の輝く神々の宮殿。


 冥界の最奥なので立地でいうと地下だが、アアルの野は古代のエジプト人が考える幸せの全てが詰まった最高の天国である。


「ちょっと、つーたん! 何であなたがピラミッドから出てくるのよ?」

「あらあらまあまあ、王家の谷についたばかりだと思ってましたのに。まだ歓迎の宴の準備ができていませんわ」

 瓜二つの姉妹の女神、イシスとネフティスが目を丸くして駆け寄ってきた。


「あー、おれはそっちのおれとは一年ほど時間がズレてまして……って、ピラミッドから!?」

 ツタンカーメンが慌ててクフ王に向き直る。


「うむ。さっきの場所はギザの地にあるワシのピラミッドの中じゃ。あれぐらい神聖な場所でなければ、ミイラごと通れるような冥界の門を開いてくれなど、神にやすやすとは頼めん」


「何でそこだって言ってくれなかったんですかっ?」

「もっとピラミッドを堪能したかったかえ?」

「じゃなくてそこがゴールだったのにっ!」

「まだワシの目的を遂げておらん」

「観光ならたっぷりやったでしょう!!」

「違ーう!! ワシの旅の目的は、今現在のファラオの働き振りを見ることじゃ!!」

「そうでしたっけ?」

「忘れるでない」


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